女将軍 井伊直虎

克全

第67話大和吉野郡制圧

『大和・吉野郡』今川義直

ここで大和国吉野郡の状況を説明しておく、吉野郡は険しい山の中だ。奈良県の面積が3690・94k㎡ なかで半分以上の2054・9k㎡も面積があるのだ。石高で言えば、大和国全体で44万4134石あるが、3万3048石しかないのだ。なのにその中で、残り4割の地域に14個も郡があるのだ。それくらい僻地で人口密度も低いという事だ。正確な事は分からなくても、大和に住む国衆・地侍は実生活で理解している。

「大和国郡の変遷」
古代 中世     1896年4月1日
曾布・添上郡 添上郡 添上郡 奈良市・天理市
添下郡 添下郡 生駒郡 大和郡山市・生駒市・生駒郡
平群郡 平群郡
広瀬郡 広瀬郡 北葛城郡 大和高田市・香芝市・葛城市・北葛城郡
葛城 葛下郡 葛下郡
葛上郡 葛上郡 南葛城郡 御所市・葛城市の一部
忍海郡 忍海郡
宇智郡 宇智郡 宇智郡 五條市
吉野郡 吉野郡 吉野郡 五條市・吉野郡
宇陀郡 宇陀郡 宇陀郡 宇陀市・宇陀郡
磯城 城上郡 式上郡 磯城郡 天理市・橿原市・桜井市・磯城郡
城下郡 式下郡
十市郡 十市郡
高市郡 高市郡 高市郡 橿原市・高市郡
山辺郡 山辺郡 山辺郡 天理市・奈良市・山辺郡

俺は甲賀・伊賀の国衆を銭で召し抱えていた。忍者として雇うのではなく、足軽・徒侍として正式に召し抱えた。母上様の御指示ではあったが、このことが随分と士気向上に役立った。険しい吉野郡の山々をものともせず、着実に制圧占領してくれている。

一方一向宗の布教拠点である今井町には手が付けれなかった。環濠城塞都市として、国衆の干渉を許さないだけの経済力と戦力を保有しているのだ。母上様も、三河・尾張・北伊勢・近江と一向宗の力が強いから、三好家の問題が片付くまで手を出すなと言われている。

吉野郡を制圧する過程で、三好三人衆に支援された筒井順慶と松永久秀が戦う事になっていた。筒井家と協力関係にあった十市遠勝が松永久秀の軍門に下っている。さらに箸尾高春・高田当次郎といった麾下の勢力が順慶を見限り離れてもいる

だが筒井家には、島左近清興と松倉右近重信がいる。史実で筒井家の両翼「右近左近」と称された2人が松永久秀に猛攻を仕掛けた。一方「筒井の三家老」と史実で称される森好之が、俺の介入を防ぐべく動いている。


『大和・信貴山城』

「殿! 敵が攻め寄せて参りました!」

「ち! 雨で発見が遅れたか?!」

「出来る限り守るのだ。」

「は!」

三好三人衆は筒井順慶を支援するだけでなく、直接全軍を率いて信貴山城を急襲した。いや急襲と言ううより、雨を待っての用意周到の攻撃だった。松永久秀さえ討ち取れば、足利義冬の将軍就任を阻む者はないと判断したのだろう。

片岡城主・森秀光・松永久秀家老
公家久我家の家宰・竹内季政の孫・竹内秀勝
海老名勝正・松永久秀家老
岩成春之
砂の城城主・結城忠正

筒井順慶は、一旦袂を分かったり裏切ったりした大和国衆に、再度の調略を仕掛けていた。だがここ俺の存在が大きかった。南朝に縁が強い俺が大和にまで攻め込んできたことで、多くの国衆が去就に迷う事になった。実際には南朝に何の未練もなくても、それを言い訳に有利な方に裏切る事が可能になったのだ。


『大和・柳生城』今川義直・柳生宗厳

「どう思う?」

「興福寺の子院とは申せ、今は筒井の城と言ってもいい物でございます。」

「ならば攻め滅ぼしても問題無いな?」

「何の問題もございません。」

「だが儂が攻めるのは後々問題がでるかもしれん、ここは同じ興福寺の者に攻めてもらい、内部の権力争いという形にしたいのだが?」

「左様でしたら、興福寺大乗院領の荘官・十市遠勝か、興福寺一乗院門跡坊人で国民の金剛寺城主・金剛寺覚淳を誘われませ。覚淳は箸尾為政家臣に家臣ですから、味方に出来れば箸尾勢全てを動かすことも可能です。」

「両名とも松永久秀に協力しておるのだな?」

「はい左様でございます。」

「では使者は誰がよい?」

「義直様の近習衆に我が一門の者を付けましょう。」

「御待ち下さい、どうか私も使者の一員に御加え下さい。」

沢房満が必死で願い出て来た。吉野郡攻略戦で思うほど功名を上げることが出来ず、このままでは沢城と領地を返してもらえないと不安になったのだろう。松永久秀が苦境に陥っている今こそ、城地を取り返すチャンスと思ったのかもしれない。

「分かった早速使者に立って貰おう。」

「有り難き幸せにございます、義直様の御厚情に報いるため、粉骨砕身働かせていただきます。」

「うむ期待しておるぞ。」

「義直様、後は多武峯妙楽寺の僧兵を味方につけられませ、妙楽寺は度々興福寺と争っております。」

「なるほど、他にも興福寺と争っていた者はおるのか?」

「今回の吉野郡制圧では見逃しましたが、金峯山寺の僧兵は興福寺や延暦寺の僧兵にも劣りませぬ。」

「う~む、余り寺社の勢力を強くしたくはないのだが?」

「僧籍を捨てさせ、国衆や侍として取り立ててはいかがでございますか?」

「うむ、御隠居様と相談した上できめよう。」

「は!」

(一向衆とのこともある、母上様に相談しなければならん。)

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