女将軍 井伊直虎

克全

第49話高島七頭始末

『観音寺城・義直・井伊直平・朽木元綱』

高島郡の南西部には、高島(佐々木)・朽木・永田・平井・横山・田中の六家、そして山崎という別系統の家を加えて高島七頭と呼ばれる武士団がいる。特に高島家は六角家からも佐々木を公称することを許され、他の高島庶子家とは区別されていた。

7家合わせても5万石程度の石高で、とてもではないが義直に抵抗できる勢力ではない。まして朽木元綱は父を高島越中に殺されている、切り崩すのは容易かった。

「御尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます。」

「元綱殿よくぞ参られた、朽木家が将軍家の直臣として常に忠誠を尽されてきたこと、聞き及んでおりますぞ。その忠誠心で1つ頼まれてもらいたいことがあるのだ。」

「何事でございますか?」

「実は幕府の三好修理大夫長慶殿か、安宅摂津守冬康殿に御会いできないだろうか?」

「どういうことでございましょうか?」

「それは私から説明たしましょう。」

「直平殿。」

「義直様は六角を追いだして南近江をほぼ手に入れました、ですが三好家と敵対する気はありません、それを理解して頂きたいのです。」

「それは公方様の命で上洛された訳では無いと言うことでしょうか?」

「公方様や幕府に忠義を尽してこられた朽木家の元綱殿には申し訳ないが、三好家は主君である細川家に忠義を尽してこられた、それを裏切ってきたのは細川家だ。」

「それは・・・・・」

「忠義や奉公に報いない主家から、国衆・地侍が離れるのは当然だと思う。義直様は国衆や地侍の忠義や奉公には報いて来られた、それだけに三好家には同情なされておられる。」

「はい・・・・・」

「義直様が向かうのは若狭や越前だ、そのことを三好家に理解して頂き、互いの進む道を話し合いたいのだ。」

「今川家が武田家・北条家と結ばれた同盟を、三好家とも結ばれると言う事ですか?」

「義直様の母が私の曾孫だと言う事は御存じかな?」

「それは聞き及んでおります。」

「我が井伊家が南朝を奉じて戦ってきたことは?」

「それは存じませんでした。」

「三好家も昔は南朝を奉じて戦ったことがあってな、義直様は伊勢の北畠と誼を通じ、津島の南朝衆を配下に加えておられる。」

「はい、それは存じております、北伊勢の南朝衆とも昵懇だと御聞きしています。」

「だから出来れば三好家とも誼を通じたい、そうして畿内を安定させる事で、公方様の策謀を抑えたいのだ。」

「・・・・・」

「このまま公方様が策謀を続けられたら、三好家の堪忍袋が切れてしまい、取り返しのつかない事になるやもしれる。」

「まさか!」

「三好筑前守義興殿が亡くなり三好修理大夫長慶殿も病気がちと聞く、三好家内が荒れるとその余波が公方様に向かう事もありえるのだ。」

「承りました、叔父達や・飛鳥井家を通して話をしてみます。」

「義直様も直接使者は出しておられる、だが安全の為にも色々な方面から接触を図りたいのだ。」

「分かっております、私以外の者が動いていても驚きも憤りも致しません。」

「うむ、頼んだぞ。」


「三好家勢力範囲」
摂津・山城・丹波・和泉・阿波・淡路・讃岐・播磨・河内・大和も領国化して10カ国に増大し、伊予東部2郡の支配、山城南部の支配などに及んでいた(他に近江・伊賀・若狭などにも影響力を持っていた)。

三好修理大夫長慶 従四位下・相伴衆
三好筑前守義興  従四位下・相判衆・病死
安宅摂津守冬康 和泉

三好康長 河内高屋城主
松永久秀 大和

『観音寺城・義直・井伊直平・佐々木越中大蔵大輔』

「御尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます。」

「佐々木越中殿よくぞ参られた、これからは義直様の為に働いてもらいたい。」

「は、粉骨砕身働かせて頂きます。」

「越中、京極・六角が滅ぶようなことがあれば、高島佐々木が嫡流となる、嫡流に相応しい活躍を期待しておるぞ。」

「は、御期待に背かぬように働かせて頂きます。」

義直は着々と南近江の国衆・地侍を配下として行った。高島郡の高島七頭も配下に加えたが、高島七頭が古より確保していた北近江十二関は廃止させた。

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