女将軍 井伊直虎

克全

第39話資金源

『岩倉城』

「そろそろ仕上げと参りますか?」

「大爺様、信長を攻め滅ぼすのでございますか?」

「爺は頃合いかと持っておりますが、義直様はまだ早いと思っておられるのですか?」

「信長を滅ぼしてしまったら、1度駿河に帰らねばならなくなるのではないですか、そうなれば氏真殿と決着をつけなばならなくなります。」

「それは確かに問題ですな、直虎様はどう思っておられるのですか?」

「信長を滅ぼした後で直ぐに斉藤に兵を向けましょう、そうすれば駿河に行く必要もありません。」

「しかし、駿河・遠江・三河の国衆や地侍はそろそろ帰さねばなりますまい。」

「佐治水軍の海上封鎖を解きましょう、そうすれば津島湊と熱田湊は莫大な富を生みます。更に知多の常滑にも湊を開きましたし、遠津淡海(とおつあわうみ)にも井伊谷に近い堀川に湊築く許可を御隠居様から頂いています。これで多くの軍資金を手にする事が出来ます。」

「母上様、それは以前話して下さったように、信長のように銭を使って足軽を集めると言う事ですか?」

「そうです、御屋形様の息の懸っていない兵を集めるのです。兵自体は弱くても、圧倒するだけの数を揃えればいいのです。」

「しかしいくら4つの湊があると言っても、資金源としては不足するのではありませんか?」

「大丈夫です大爺様、白拍子と歩き巫女達が信長のやり方を詳しく調べてくれました。」

「どう言うことですか?」

「信長の楽市楽座は聞いておられますね。」

「それは聞いております。」

「信長は、楽市楽座を実施する見返りに、塩を専売制にしたのです。民にしたら塩は必ず必要な物、必ず買う物を織田家から買うだけで、商売は自由になるし関所も廃止されるのです。31万2000人の尾張の民は、喜んで信長から塩を買いました。」

「それが信長の資金源なのですか?」

「塩1升で20文です。1人が1年で必要とする塩が3升6合で、72文必要になります。5割の利があるとして、尾張1国で1万1232貫文銭が手に入るのです。しかも1年に1度ではなく、毎日分けて手に入るのです。」

「なるほど、蔵入り地以外に1万貫文以上が日銭として入るなら、軍資金の遣り繰りは楽でございますな。」

「母上様、銭で集めた足軽と尾張の国衆・地侍、三河の松平殿と今川一門の新野殿・関口殿・瀬名殿が味方して下されば、氏真殿に勝てるのではないでしょうか?」

「義直殿、迂闊なことを申されてはいけません。氏真殿には北条と武田が味方しているのです、少なくとも北伊勢と美濃を切り取るまでは手切れする訳にはいけません。」

「そんなにかかるのですか。」

「背後を心配しなくていいだけではありません、援軍すら求めることが出来るのです。実際に御隠居様は、武田の援軍を得て北条と戦われたこともありますし、北条も武田の援軍を得て戦った事もあるのです。」

「御隠居様が武田と手を結んで北条と戦われたのですか?」

「井伊家が今川家と戦った事があるのは知っているでしょ?」

「はい、それは散々館で嫌味を言われました。」

「義直様が力を得て、御屋形様を越える力を持たれたら、新たな縁を武田や北条と結ぶことも可能です。ですから力を持たれるまで迂闊な事を申されますな。」

「はい、母上様。」

「それと大爺様、博多に交易の船を出そうと思います、信用出来る兵を集めて下さい。」

「何を交易すると言うのだ?」

「金と精銭を博多まで運びます。」

「それで何を買い求めるのだ?」

「永楽銭を買い求めます。」

「それで利があるのか?」

「はい、西国では永楽銭が嫌われているそうです。ですから博多まで金を運んで永楽銭と銀を求めて、遠江に戻って永楽銭で銀で金と精銭を求めます。」

「直虎殿がそう言うなら利があるのだろうが、よく分からん。」

「では永楽銭と精銭だけで話しましょう。」

「遠江から精銭100貫文を持って博多に行けば永楽銭200貫文と替えてもらえます。」

「なに! 間違いではないのか?!」

「間違いではありません、白拍子と歩き巫女達が調べてくれました。」

「う~む、信じられん。」

「続けて宜しいですか?」

「うむ、頼む。」

「博多で手に入れた永楽銭200貫文を遠江に運べば精銭800貫文と替えてもらえます。」

「それは分かる、皆精銭を嫌って永楽銭を尊んでおる。」

「その精銭800貫文を博多に運べば永楽銭1600貫文になり、それを遠江に運べば精銭6400貫文になります。」

「永遠に増え続けるではないか!」

「ただ海賊衆の警固料や襲撃・難破を考慮していませんし、何よりただ銭を動かしただけでは直ぐ誰かに真似られてしまいます。金銀銅・鉄砲・硝石・武具甲冑を売買して露見しないようにします。」

「う~む、難しい事は分からぬ、その件は直虎様に御任せする。信頼できる将兵を集めるのは任せてくだされ。」

「お願いいたします大爺様、義直様には理解出来るまでお話を聞いて頂きますよ。」

「任せられよ。」
「はい母上様。」

「それと信長は父親の代から私鋳銭を造っていたようです、私たちもそれを真似ます。」

「私鋳銭? 銅を集めるのか?」

「鐚銭を集めて、それを材料に職人に質のよい私鋳銭に造り直させていたようでございます。」

「では母上様、私のすることは兵を集めることでございますね。」

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