女将軍 井伊直虎

克全

第27話三津七湊・廻船式目

『御器所西城外』

信長は御器所東城を静々と囲んだが、その作戦は自分がやられた城攻めを早速取り入れての城攻めだった。城の出入り口前に濠を掘り土塁を築いていったし、しかも城からの逆撃をさせないように、鉄砲隊を配置して迎え討つ準備もしていた。

城代の鵜殿長照は散々叩かれて手勢を減らしていた。一旦攻城を解かそうと出陣したものの、散々鉄砲で撃ち負かされ這う這うの体で籠城する羽目になっていた。新たに兵を募って2500にまで戻していた兵力だが、傷ついた兵も含めて2000兵となってしまった。

続いて信長は御器所西城を囲んだ。今回も城の出入り口前に濠を掘り土塁を築き鉄砲隊を配置したが、城代の岡部元信は既に散々打ち負かされて手勢を減らしていた。優先的に牢人兵・流民兵を回してもらっていたが、それでも負傷兵を併せて1500兵で、士気の著しく落ちた兵で討って出る事は出来なかった。

「殿、御器所東城を取り返さないのでございますか?」

河尻秀隆が信長の考えが理解出来ず訊ねた。

「義元を引きずり出す。」

「義元が援軍に駆けつけるでしょうか?」

「来ねば封鎖する。」

「桶狭間の件で臆病になっているのですな。」

「しかしそうなりますと、我々は古渡城を攻めねばならなくなります。義元は5000の兵で籠っているとの事ですから、我らの手勢は6000兵で攻め落とすのは至難のわざでございましょう。」

森可成が疑問をていする。

「義元は古渡城からでぬだろう、だから出入り口を封じて熱田湊に入る。」

「なるほど、御器所東城・御器所西城・古渡城を封じてから熱田に入るのですな。」

「その上で義元を封じ込めた古渡城を攻める。首を取った者には恩賞は望みのままとうわさを流し、国衆・地侍・牢人・農兵・流民を集める。」

「なるほど、欲に目が眩んだ者を集めて使い捨てになさるのですな。」

「いや、ちゃんと恩賞を与えて召し抱える。攻め取られた知多郡、裏切り者のいる愛知郡、これから攻め取る三河に美濃、いくらでも与える所領はある!」


『津島砦』

信長が着々と熱田湊の解放と義元討ち取り準備を進めている時、義直は直虎の勧めに従い津島湊の調略を進めていた。

「大爺様、調略は順調ですか?」

「お任せ下さい直虎様、織田家と森家に縁を結んでいる大橋家を外しました。残る14家は、井伊義直様に従うと申しております。」

「大橋家も織田に縁の無い分家に当主を交代させて、権力はそのまま残して下さい。」

「後々障りになりませんか?」

「同じ南朝の誼です、これからも南朝の繋がりは大切にしなければなりません。」

「なるほど、伊勢の事でございますね。」

「場合によっては、北条・武田・斉藤と事を構えなければならなくなります。伊勢くらいは大人しくしてもらいたいのです。」

「分かりました、大橋家とはその条件で話をつけましょう。他の14家も、その方が安心して話を纏める事が出来るでしょう。それはそうと、御隠居様をお助けに行かなくてよいのですか?」

「鉄砲隊への対処法が見つかるまでは、我々も迂闊に動けません。」

「木盾を厚く大きくするのも限度がございます、それに短時間に木盾を多数を揃えるのは無理でございます。」

「我らや将だけでなく、広く兵にも考えさせてください。よき考えを思いついた兵には、厚き褒賞を与えましょう。」

「承りました、それで津島湊と熱田湊を手に入れた後はどうなされるのですか?」

「海を支配します。」

「海ですか?」

「信長が父の代から力を持ったのは、津島湊を手に入れたからだと白拍子や歩き巫女が調べてくれました。更に熱田湊を手に入れた事で、軍資金が潤沢になったとも聞いています。御隠居様に知多・遠津淡海(とおつあわうみ)(浜名湖)に湊を造る許可ももらっております。」

「それで海を支配するのですか?」

「尾張1国で1つの湊を支配しただけで、尾張を支配しようかというほどの潤沢な軍資金が手に入ったのです。尾張・三河・遠江を支配下に置き、多くの湊を手に入れ上手く使えば、もっと多くの軍資金を手に入れる、天下に覇を唱える事が出来ます。」

「なるほど、しかし湊と言えば『三津七湊』でございましょう?」

「確かに三津と呼ばれる堺・伊勢安濃津(桑名)・筑前博多津と、七湊と呼ばれる越前三国湊・加賀本吉湊・能登輪島湊・越中岩瀬湊・越後今町湊(直江津)・出羽土崎湊(秋田)・津軽十三湊が有名ですが、安濃津から遠津淡海までの海の道を創れればその利は莫大になるでしょう。」

「なるほど!」

「しかし大爺様、その為には寺社を手中に置かねばなりません。」

「寺社でございますか? それは何故でございましょう。」

「大爺様は『廻船式目』を読まれた事はありませんか?」

「いえありません。」

「湊を軍資金の柱にしようと読んだのですが、そこには寺社の力を借りた方がよいと思えることが書いてありました。」

「それはどう言う事でございますか?」

「廻船式目では、寄船は寺社に寄進する事になっています。御隠居様の定められた今川仮名目録でもそうなっています。佐治水軍から聞いた話では、寄船はかなりの財貨になるようです。」

「なるほど! それで熱田湊は熱田神社、津島湊は津島神社を柱に纏まっているのですな。」

「遠津淡海に創る湊は、龍潭寺に預けようと思っています。」

「なるほど、龍潭寺2世・南渓瑞聞は我が次男、3世・4世も井伊から出すように致しましょう。」

「大叔父様には各地の寺社に手を回し、湊を支配する寺社に井伊一門を送れるように動いて頂きます。それが駄目なら、新たな寺社を創建した上で湊の守護神と致しましょう。」

「神仏混合でございますな、そのように手配いたします。」

翌日津島湊の四家七苗字四姓は降伏臣従してきた。大橋家は織田・森と血縁のない分家が当主となり、当面は井伊家に従う素振りを見せたが、織田が力を盛り返せばどうなるか分からない。

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