女将軍 井伊直虎

克全

第21話反撃の信長

『尾張・伊藤城』
「殿、殿。信長様でございます。信長様が来られます」

配下の一人が、信長が援軍来ると言う先触れの到着を知らせに来た。

「分かっておる」
「信盛殿。どうなされる御心算か」
「どうもせぬ。今の信長殿に、我らを切り捨てる余裕などない」
「ならば、今川に下る話は、なかったことにするのですな」
「織田が不利になれば、今川の味方をして裏切ればいい。そうすれば、今川も受け入れてくれるだろう」
「そのような不名誉な事‥‥‥」
「武士に不名誉などあるものか。朝倉宗滴殿も言っているではないか『武者は犬とも言え、畜生とも言え、勝つ事が本である』とな」
「それはそうでございますが‥‥‥」
「織田と今川に挟まれた我らには、生き残る事こそ武士の道じゃ」
「‥‥‥」
「とにかく、信長殿を迎える事だ。今川を撃退出来れば、それにこした事はない。山崎城を取り返してくれるなら、これまで通り忠誠を尽すだけじゃ」

一時間後、五千の兵を引き連れ、信長が清州城から駆けつけて来た。

「盛次。信盛。出迎え御苦労」
「殿自ら援軍を率いて下さり、御礼の申しようもございません」
「我が力及ばず、戸部一色城、山崎城を奪われてしまいました。申し訳ございません」

信長は何も言わずに信盛に近付くと、抜討ちで、一刀のもとに信盛の首を刎ね飛ばしてしまった。
刎ね飛ばされた信盛の首は、驚愕の表情を浮かべて地に転がり落ちた。

「何をなされます」

盛次は咄嗟に刀に手を掛けて、怒鳴りつける暴挙に出た。

「善照寺砦、戸部一色城、山崎城では碌な抵抗もせず逃げ出した。その所為で上社城、下社城、一色城で地侍と足軽が寝返り、柴田一門が城を追われる事になった。その責を取らせただけじゃ」
「しかしながら、何の弁明も聞かぬとは、あまりのことではございませんか」
「盛次の妻は、柴田勝家の姉であろう。信盛の怯懦の所為で城地を失いながらも忠義を貫き、我の下に参った柴田の女衆に恥ずかしくないのか」
「それは‥‥‥」
「武士ならば、名を惜しみ名誉を大切にすべきであろう」
「はい‥‥‥」
「信盛の配下と城地は、盛次が引き継げ。山崎城を取り返したら、盛次のものじゃ」
「承りました」

信長は、信盛を成敗するとすぐさま軍を移動させ、川名北城を囲んでいる鵜殿長照を夜襲した。
清州城に逃げた信長が、反撃に転ずると思っていなかった長照勢は、闇の中での攻撃に狼狽して、脆くも崩れて逃げ出した。
信長は長照勢を追わずに、隣の川名南城を囲んでいる、岡部元信を強襲した。
しかし名将・岡部元信は、素早く手勢を纏めて、迎撃態勢をとろうとした。
だが長照勢との戦いに勝ち勢いに乗る信長勢は、岡部勢を押しまくった。
闇夜に強襲を受けたうえ、倍の兵力で押されると、雑兵から逃げ出す者が出て来た。
そこに川名南城の佐久間彦五郎が城から討って出たのだ。
名将・岡部元信も支えきれず、御器所西城に逃げ出した。
今度も信長は追撃を行ったが、追首を取ることは事前に禁止されていた。
今川勢を追いかけ、出来れば城に逃げ込む今川勢と共に入城し、奪われた川名南城と川名北城を取り返したかったのだ。
だが岡部元信は名将だった。
城に入る事なく、城外から籠城を指示すると、守備兵が態勢を整える時間を稼ぐ為に、城外で信長勢を迎え討ったのだ。
その上で頃合いを見計らって、義元のいる山崎城に事の顛末を知らせる為、山崎城の方に落ちて行った。

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品