逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第70話

コックスが戻ってきました。
何か吹っ切れたような表情をしています。
シーモア公爵家のため、私のため、暗殺という汚れ仕事をやってくれたのです。
私も、このまま隠れ暮らす訳にはいきませんね。
私には私の役目があるはずです。
公爵家令嬢で、王太子殿下の元婚約者だからできる汚れ仕事があるはずです。

「リリアン。
私はシーモア公爵家に生まれた者として、責任を果たしたくなりました。
ウィリアム王太子殿下を愛し護るだけではなく、この国を護りたいのです。
私は王都に戻るべきなのでしょうか?
それとも領地にいるべきなのでしょうか?」

「恐れながら確認させていただきます。
本気でございますか?
本気で、命を賭けて、家のため国のため、働かれる御覚悟なのですか?」

リリアンの眼が怖いくらい本気です。
一瞬怯みそうになりましたが、心を奮い立たせました。
私もコックスに負けていられません。
戦闘侍女も命懸けで仕えてくれています。
何より、リリアンが誇れるような主人でいたいと、心から思うようになりました。

「本気です。
私はリリアン達が誇れるような主人でありたいと、そう思うようになれました。
リリアン達が、誠心誠意仕えてくれるのを見てきたから、そう思えるようになれたのです。
私を誇り高い本当の貴族にしてください」

「承知いたしました。
これからは今まで以上に厳しく接しさせて頂きます。
まず、王太子殿下への甘い態度は改めていただきます。
御嬢様が王太子殿下を甘やかすと、殿下が暗愚になってしまいます」

「リリアン。
そんな事を口にするリリアンこそ、私に甘すぎるのではなくて?」

「いいえ、間違った事は口にしておりません。
御嬢様は何時でも間違いを謝り正してくださいます。
ですが王太子殿下は違います。
しかも最近では、媚薬を盛られて離宮に幽閉されるほど危険な状態です。
御嬢様に命懸けで諫めていただかないと、民が苦しむ事になるのです」

やれやれ、リリアンにも本当に困ったものです。
上手く言い訳しますが、誰よりも何よりも、私を大切にしてくれています。
だからこそ、私も身を引き締めて行動しなければなりません。
殿下を愛する事が全てだった私が、急にここまで考えが変わるなんて。
何かおかしい気もしますが、いい変化だと思うので、まあいいでしょう。

「御嬢様。
多少危険ではありますが、準備が整い次第、領地をでていただきます。
囮となって刺客を集め、黒幕を炙りだしていただきます。
本当に宜しいのですね?」

おや、リリアンがこんな危険な提案をしてくるとは思いませんでした。
ですが、ムク達との絆を考えたら、私は不死の存在になっているのです。
少々の事は大丈夫と考えを改めてくれたのかもしれませんね。

「ええ、大丈夫です。
覚悟はできています」

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