第62話王太子ウィリアム視点

「ねぇ、殿下。
殿下はグレイス様を愛しておられるのですよね？
だったら正直に真心を示された方がいいのではありませんか？
女は幼くても女なのです。
強く押してくださる男性に魅かれるモノですわ。
殿下が本当にグレイス様を愛しておられるのなら、側にいて欲しいともっと強く望まれるべきだと思いますの」

「だが、グレイスは身体を壊して領地で療養しておるのだ」

「そうでございましたね。
でも、学生たちの噂では、随分と健康を取り戻されたという話ですが？」

「その噂は余も聞いておる……」

噂ではない！
それは真実だ！
余が送り込んだ密偵からは、事もあろうに、侍女を連れて魔境に狩りに行っていると連絡があった。
もう十分健康ではないか！

こんな簡単に健康をとりもどすなど、信じられん。
余が会いに行っていた時には、病気の演技をしていたのか？
いや、あれはとても演技だとは思えん。
父上も母上も本気で心配していたし、エレノアも奇病だと断言していた。
だから、グレイスやシーモア公爵が余を騙したわけではないだろう。

急に発症した奇病なのだから、不意に治ることがあってもおかしくはないか？
だったら王都に呼び戻しても何の問題もないな！
余はグレイスを愛している。
常に側にいて欲しいと願っている。
シーモア公爵も養女を余の正妃にするよりは、実の娘が正妃になった方がうれしいであろう。

「よく言ってくれた、スカーレット。
余は決めた、グレイスを王都に呼び戻す。
誰が反対しようと断じて行う。
余の正妃はグレイス以外いない！」

「それはようございました。
女は愛する人に強く愛されるのがうれしいのでございます。
殿下の強い愛情を感じる事ができたら、グレイス様も喜ばれることでしょう。
私の微力ながら御手伝いさせていただきます。
何かありましたら、またお話しください。
そうですね、グレイス様は病で療養に戻られたのですから、色々と不安でございましょう。
学内では侍女が御世話する事もできませんし、男性の殿下には相談できない事もございますでしょうから、私が御手伝いさせていただきましょうか？」

「そうか、そうしてくれるか！
スカーレットがグレイスの世話をしてくれるなら、余も安心だ。
ディランも安心してうるさい事を言わないだろう」

「お待ちください、殿下。
ディラン様は、体調を崩された妹のグレイス様をたいそう心配し、壊れ物のように大切にされておられると、生徒達の間で評判でございます。
殿下の御言葉でも、グレイス様が王都に戻るのを肉親の情で反対されるかもしれません。
ここは黙っておかれる方がいいのではありませんか？」

「そうか？
そうだな！
ディランは妹を過保護に扱うかもしれんな。
ここは先に父上に話を通しておこう。
父上の決定なら、誰も反対せんだろう」