逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第45話

私達はビルバイン城に一週間滞在しました。
戦闘侍女達の疲労が想像以上に蓄積されていた事と、私に会いたいとやって来る家臣が想像以上に多かったからです。
普通ならばどれ程予定が遅れても領都のシーモア城に戻るべきです。
ですが今回はそうできない理由がありました。

絆を結んだムク達の事です。
魔境を離れても大丈夫なように、魔獣肉を確保しなければなりません。
旅の間に狩った魔獣肉が残り少ないのです。
公爵領まで安全に戻る事と、ムク達に十分な食事を与える事。
リリアン達が、それを両立させるためにギリギリの日程を組んでくれたのです。

問題はそのリリアン達の疲労が計算外に重かった事と、家臣達が私を待ちわびてくれていた事です。
予定を遣り繰りして遠方から訪ねてくれた家臣を無碍にはできません。
歓待するための食糧は多少負担になりますが、それは今後魔境で狩りをする事で十分取り返す事ができます。

「姫様。
デビルイン城の準備が整ったと伝書鳩が参りました。
何時でもおいでいただきます」

「分かりました。
明日にでも出発いたします」

本当は、銀狼数頭をビルバイン城に残しておきたかったのです。
シーモア城にも残しておきたかったです。
命を惜しんでいると馬鹿にされるかもしれません。
ですが、知ってしまった以上、生き戻った以上、何とかしたいのです。
悔いを残して死ぬのはもう嫌なのです。

安全の上にも安全を重ね、ムク達の成長を後回しにしてでも、ビルバイン城とシーモア城とデビルイン城に分散させる方法。
デビルイン城に集中させてしまいますが、魔境に同行するのは半数に限る方法。
リリアン達は安全重視を献策してくれました。
ですが私がデビルイン城に集中させる案を強行しました。

足の速い騎士と馬車だけで進むにしても、ビルバイン城からデビルイン城までは十日はかかります。
リリアン達が安全と速度の兼ね合いを考えながら、宿泊する場所を選んでいます。
理想は軍城や代官所ですが、家臣の館や名主の家を選ぶ可能性もあります。
少なくとも昼食休憩は、名主の家にしなければならないでしょう。

準備を整えてもらう為に、メイソンの側近や従士に先触れに立ってもらいました。
私の戦闘侍女に無礼を働く者はいないと思いますが、万が一という事もあります。
戦闘侍女達は、家臣の娘から選抜された者が多いのです。
私の油断から傷つけるのは嫌なのです。

戦闘侍女に志願した以上、本人も父母も死傷も覚悟している事でしょう。
ですがそれは、名誉ある戦いでの死傷です。
先触れに立って、男の劣情の犠牲になるなど、許せることではありません。

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