初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!
第165話桐箪笥
桐の街・パヴロヴナ:職人の家
「すみません、箪笥(たんす)を見せて欲しいんですが」
「返事が無いな」
「そうだね、中に人がいる気配はあるんだけど、仕事に集中しているのかな?」
「人間など相手に出来ない、そう思っているのかもしれないぞ」
「そうかも知れないね」
「どうする?」
「諦めて次に行くよ」
「ここで8件目だぞ、本当にいいのか?」
「仕方ないよ、俺だって創作に集中しているのを邪魔されたら、無茶苦茶腹が立つからね」
「人間を馬鹿にしていたり、嫌っていたりしていてもか?」
「まあ誰にも好き嫌いくらいはあるからね、人間嫌いだと言うの人に、無理矢理会えと言うのも身勝手だと思うよ」
「随分と聞き訳がいいのだな」
「まあね、長年かけて信頼と信用を築いた人もおられるだろうから、その人から買えばいいさ」
「直接職人から買うより、随分と割高になるのではないか?」
「職人も商売人も、何時も定期的に買ってくれる相手を優先するさ。1度しか買ってくれない相手に少々高く売っても、常連客との約束を破ったりすると、今後買ってもらえない可能性もあるからね」
「まあ好きにするがよかろう、金なら唸るほどあるのだ。それに、ミノルの無限とも言えるアイテムボックス容量を考えれば、箪笥など不要なのだからな」
「そう言うな、俺はともかく、俺に子供が出来る可能性もあるからね」
「ほう! ついにオードリーに手を出す気になったのか?」
「まあね、あれだけ好意を見せてくれたら、俺だってその気になるさ」
「ふむ、生物が子孫を残すのは一番大切な本能だ、ミノルも数多く子孫を残すがいい」
「俺を色魔のように言うんじゃない!」
俺はセイと他愛の無い会話をしながら、箪笥職人エルフの家を周ったのだが、どこも居留守というか、出て来て対応してくれなかった。だから仕方なく、村の中央にある、役所と言うか事務所と言うか、入村者に対応してくれる所に行った。
「どうした?」
「いや~、さっき教えて頂いた職人の家を全部回ったんですが、全く出て来てもらえなくて」
「当然だな、誇り高き職人が人間などの相手をするわけがない」
(だったらさっき聞いた時のそう言えばよかろう!)
(怒ってるの?)
(人間世界のエルフだと分かっているが、エルフが我のデュオを愚弄するのは腹立たしい)
(段々人間みたいになって来たね)
(ミノルの影響だな)
(そうかもね)
「それで、ここで桐箪笥の依頼をしたいのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、手数料がかかるから、直接頼むより割高になるぞ」
「それは構いませんが、何割の手数料になるんですか?」
「箪笥本体価格の5割だ」
「それで大丈夫ですが、こちらで設計した箪笥を作ってもらえますか?」
「職人が引き受けてくれれば大丈夫だが、注文依頼の一品物は高くなるぞ」
「それも大丈夫です。ただ確認しておきたいのですが、総桐箪笥ですよね」
「何が言いたいのだ?」
「眼に見える前板の部分だけ桐を使ったり、前板と両側面だけに桐を使った箪笥はいりませんよ」
「裏板も内張りも、細かな部材も全て桐を使った箪笥がいいと言うのであろう。お前はこの村を馬鹿にしているのか?」
「そんなことはありませんよ」
「ふん! どうだかな? 我らエルフは人間と違って誇り高き一族なのだ! 桐の村と言われる誇りにかけて、総桐箪笥以外は作らんし売らんわ!」
「そうですね、人間に中には眼に見える部分だけ桐を使い、総桐箪笥と偽って高い価格で売る者がいます。まあそんな人間世界で商売してきましたから、高い値段を払う以上、ちゃんと契約書を交わしたいのですよ」
「ふん、人間とは卑しきものよ。だが長年ここで人間と交渉しておるから、契約書の大切さは理解しておる。人間が約束通りの金額を払わない事もあるから、ここは契約書を交わしてやろう」
(本当に嫌味な奴だな)
(そうだね、悪い意味でエルフらしいね)
(だが何故ここまで総桐箪笥にこだわるのだ?)
(それはおれの子供に魔力が無かった場合の保険だよ)
(総桐箪笥が保険になるのか?)
(総桐箪笥は、桐自体が箪笥に向いた素材なんだよ)
(どう向いているのだ?)
(桐はね、ゆがみや変形等の少ないんだ。だから狂いが少なく、長期間使っても形が崩れない。代が変わるくらい使ても、洗いや修理をすれば再生できるんだよ)
(ふむ、好いように聞こえるが、それだけか?)
(他にもね、軽いから動かしやすいし、害虫が入り難いと言う特徴があるんだよ)
(なるほど、虫に衣服を喰われるのは嫌だな)
(それとね、狂いなく作られた総桐箪笥は気密性がいいから、桐が呼吸する事で内部が一定の湿度になって、衣服が傷まないんだよ)
(そうか、だが貴重な衣服には、状態保存の魔法をかけておけばよかろう?)
(だからさ、魔法が使えない子孫の場合だよ。総桐箪笥自体にも状態保存の魔法をかけておけば、それこそ二重で保存できるだろう)
(ミノルは心配性だな、いったいどれくらいの期間を考えているんだ?)
(代々だよ、魔法が使えない子孫を、俺が見守れないくらいの将来だよ)
(それこそいらぬ心配だな、我とデュオと成ったミノルは、永遠の命を手に入れているのだぞ?)
(そうだがな、俺自身が生きる事に倦み疲れたらどうなるんだ?)
(・・・・・自殺すると言うのか?)
(分からんよ、だが俺が元いた世界では、永遠の命を手に入れた人間が、生きる事に疲れて狂ってしまう話が多いんだ)
(現実か? それともミノルがよく話す物語、架空の話か?)
(架空の話だよ、実際に永遠の命を手に入れた人間などいないからな)
(だったらそんな心配など無駄な事だ、ミノルは1人ではなく、常に我と一緒なのだ。それにな、常に子孫と交流し、育て守ってやっておれば、孤独になって狂うこともないであろう)
(まあそうだな)
「おい、聞いてるのか人間?!」
「ああ聞いているよ」
「契約書を交わしてくれるエルフは、アンタらが探してくれると言う事だろう」
「ふん、聞いているならちゃんと返事をしろ!」
「分かっているよ、ちょって返事が遅れただけだよ」
「ちっ! だがな人間、エルフは誇り高いのだ! 自分の作品を人間に売るのならともかく、人間の設計依頼を受けてくれるエルフは少ないのだ」
「だからこその割高だし、時間がかかるのだろ、分かっているよ」
「だったら、今日明日直ぐに職人と会えないのは分かっているな?」
「分かっているよ、まずはここで依頼を受けてくれるだけでいい。仕入れてきた塩と海藻は全部売れたから、一旦ナーポリに帰って新しい塩と海藻を仕入れてくるよ」
「それは何時になる?」
「明日になるか明後日になるか分からんよ」
「なんだと? そんないい加減な約束では、エルフの職人を紹介など出来んぞ!」
「おいおいおい、今回は受けてくれるかどうか聞いてくれるだけなんでしょ」
(段々言い方がぞんざいになって来たな、さすがのミノルも怒ったか?)
(それもあるんだろうけど、このエルフには、少し強気に出た方が話が早い気がしたんだ)
(なるほど)
「何だと? それはどう言う意味だ!」
「俺としても、何時会えるかもわからない相手の為に、無駄な宿泊費を払う訳にはいかないんだ。そんな金を払っていたら、売値が高くなり過ぎてしまう。それくらいなら総桐箪笥を諦めて、欅(けやき)の箪笥か桜の箪笥にするつもりだ。桐の村があるのなら、当然欅の村も桜の村もあるのだろう?」
「う!」
「すみません、箪笥(たんす)を見せて欲しいんですが」
「返事が無いな」
「そうだね、中に人がいる気配はあるんだけど、仕事に集中しているのかな?」
「人間など相手に出来ない、そう思っているのかもしれないぞ」
「そうかも知れないね」
「どうする?」
「諦めて次に行くよ」
「ここで8件目だぞ、本当にいいのか?」
「仕方ないよ、俺だって創作に集中しているのを邪魔されたら、無茶苦茶腹が立つからね」
「人間を馬鹿にしていたり、嫌っていたりしていてもか?」
「まあ誰にも好き嫌いくらいはあるからね、人間嫌いだと言うの人に、無理矢理会えと言うのも身勝手だと思うよ」
「随分と聞き訳がいいのだな」
「まあね、長年かけて信頼と信用を築いた人もおられるだろうから、その人から買えばいいさ」
「直接職人から買うより、随分と割高になるのではないか?」
「職人も商売人も、何時も定期的に買ってくれる相手を優先するさ。1度しか買ってくれない相手に少々高く売っても、常連客との約束を破ったりすると、今後買ってもらえない可能性もあるからね」
「まあ好きにするがよかろう、金なら唸るほどあるのだ。それに、ミノルの無限とも言えるアイテムボックス容量を考えれば、箪笥など不要なのだからな」
「そう言うな、俺はともかく、俺に子供が出来る可能性もあるからね」
「ほう! ついにオードリーに手を出す気になったのか?」
「まあね、あれだけ好意を見せてくれたら、俺だってその気になるさ」
「ふむ、生物が子孫を残すのは一番大切な本能だ、ミノルも数多く子孫を残すがいい」
「俺を色魔のように言うんじゃない!」
俺はセイと他愛の無い会話をしながら、箪笥職人エルフの家を周ったのだが、どこも居留守というか、出て来て対応してくれなかった。だから仕方なく、村の中央にある、役所と言うか事務所と言うか、入村者に対応してくれる所に行った。
「どうした?」
「いや~、さっき教えて頂いた職人の家を全部回ったんですが、全く出て来てもらえなくて」
「当然だな、誇り高き職人が人間などの相手をするわけがない」
(だったらさっき聞いた時のそう言えばよかろう!)
(怒ってるの?)
(人間世界のエルフだと分かっているが、エルフが我のデュオを愚弄するのは腹立たしい)
(段々人間みたいになって来たね)
(ミノルの影響だな)
(そうかもね)
「それで、ここで桐箪笥の依頼をしたいのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、手数料がかかるから、直接頼むより割高になるぞ」
「それは構いませんが、何割の手数料になるんですか?」
「箪笥本体価格の5割だ」
「それで大丈夫ですが、こちらで設計した箪笥を作ってもらえますか?」
「職人が引き受けてくれれば大丈夫だが、注文依頼の一品物は高くなるぞ」
「それも大丈夫です。ただ確認しておきたいのですが、総桐箪笥ですよね」
「何が言いたいのだ?」
「眼に見える前板の部分だけ桐を使ったり、前板と両側面だけに桐を使った箪笥はいりませんよ」
「裏板も内張りも、細かな部材も全て桐を使った箪笥がいいと言うのであろう。お前はこの村を馬鹿にしているのか?」
「そんなことはありませんよ」
「ふん! どうだかな? 我らエルフは人間と違って誇り高き一族なのだ! 桐の村と言われる誇りにかけて、総桐箪笥以外は作らんし売らんわ!」
「そうですね、人間に中には眼に見える部分だけ桐を使い、総桐箪笥と偽って高い価格で売る者がいます。まあそんな人間世界で商売してきましたから、高い値段を払う以上、ちゃんと契約書を交わしたいのですよ」
「ふん、人間とは卑しきものよ。だが長年ここで人間と交渉しておるから、契約書の大切さは理解しておる。人間が約束通りの金額を払わない事もあるから、ここは契約書を交わしてやろう」
(本当に嫌味な奴だな)
(そうだね、悪い意味でエルフらしいね)
(だが何故ここまで総桐箪笥にこだわるのだ?)
(それはおれの子供に魔力が無かった場合の保険だよ)
(総桐箪笥が保険になるのか?)
(総桐箪笥は、桐自体が箪笥に向いた素材なんだよ)
(どう向いているのだ?)
(桐はね、ゆがみや変形等の少ないんだ。だから狂いが少なく、長期間使っても形が崩れない。代が変わるくらい使ても、洗いや修理をすれば再生できるんだよ)
(ふむ、好いように聞こえるが、それだけか?)
(他にもね、軽いから動かしやすいし、害虫が入り難いと言う特徴があるんだよ)
(なるほど、虫に衣服を喰われるのは嫌だな)
(それとね、狂いなく作られた総桐箪笥は気密性がいいから、桐が呼吸する事で内部が一定の湿度になって、衣服が傷まないんだよ)
(そうか、だが貴重な衣服には、状態保存の魔法をかけておけばよかろう?)
(だからさ、魔法が使えない子孫の場合だよ。総桐箪笥自体にも状態保存の魔法をかけておけば、それこそ二重で保存できるだろう)
(ミノルは心配性だな、いったいどれくらいの期間を考えているんだ?)
(代々だよ、魔法が使えない子孫を、俺が見守れないくらいの将来だよ)
(それこそいらぬ心配だな、我とデュオと成ったミノルは、永遠の命を手に入れているのだぞ?)
(そうだがな、俺自身が生きる事に倦み疲れたらどうなるんだ?)
(・・・・・自殺すると言うのか?)
(分からんよ、だが俺が元いた世界では、永遠の命を手に入れた人間が、生きる事に疲れて狂ってしまう話が多いんだ)
(現実か? それともミノルがよく話す物語、架空の話か?)
(架空の話だよ、実際に永遠の命を手に入れた人間などいないからな)
(だったらそんな心配など無駄な事だ、ミノルは1人ではなく、常に我と一緒なのだ。それにな、常に子孫と交流し、育て守ってやっておれば、孤独になって狂うこともないであろう)
(まあそうだな)
「おい、聞いてるのか人間?!」
「ああ聞いているよ」
「契約書を交わしてくれるエルフは、アンタらが探してくれると言う事だろう」
「ふん、聞いているならちゃんと返事をしろ!」
「分かっているよ、ちょって返事が遅れただけだよ」
「ちっ! だがな人間、エルフは誇り高いのだ! 自分の作品を人間に売るのならともかく、人間の設計依頼を受けてくれるエルフは少ないのだ」
「だからこその割高だし、時間がかかるのだろ、分かっているよ」
「だったら、今日明日直ぐに職人と会えないのは分かっているな?」
「分かっているよ、まずはここで依頼を受けてくれるだけでいい。仕入れてきた塩と海藻は全部売れたから、一旦ナーポリに帰って新しい塩と海藻を仕入れてくるよ」
「それは何時になる?」
「明日になるか明後日になるか分からんよ」
「なんだと? そんないい加減な約束では、エルフの職人を紹介など出来んぞ!」
「おいおいおい、今回は受けてくれるかどうか聞いてくれるだけなんでしょ」
(段々言い方がぞんざいになって来たな、さすがのミノルも怒ったか?)
(それもあるんだろうけど、このエルフには、少し強気に出た方が話が早い気がしたんだ)
(なるほど)
「何だと? それはどう言う意味だ!」
「俺としても、何時会えるかもわからない相手の為に、無駄な宿泊費を払う訳にはいかないんだ。そんな金を払っていたら、売値が高くなり過ぎてしまう。それくらいなら総桐箪笥を諦めて、欅(けやき)の箪笥か桜の箪笥にするつもりだ。桐の村があるのなら、当然欅の村も桜の村もあるのだろう?」
「う!」
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