初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第118話「魔獣肉と野草の寸胴鍋ロースト」とブイヨン作り

「また新しい料理を伝えるのだな?」

「ああ頼むよ」

「開拓村と見習村の両方なのだな?」

「ああ両方だ」

「だが開拓村はともかく、見習村に料理が出来る者などいるのか?」

「ラーラさんは無理だと思うけど、エルマは上手だと思うぞ」

「ふむ、あの子なら丁寧に作ってくれそうだな」

「ノーラのパーティの中にも1人くらいは料理の出来る者がいると思うぞ」

「我はそうは思わんがな」

「そうか? だが見習や新人の中には、冒険者になるより料理人になる方が幸せになれる者がいるかもしれないしな」

「そうか? 見習村で労する事無くレベルが上がり、普通では信じられない若さで高レベル冒険者になれるのだ。冒険者の方が稼ぎも多く、幸せに暮らして行けると思うがな」

「この世界ならそうなのかもしれないが、俺の基準では好きな仕事をする方が幸せなんだよ。だからせめて俺が支援してやれる場所では、好きでも無い稼げる仕事では無くて、好きな仕事に就いて暮らして行けるようにしてやりたいのさ」

「まあミノルの好きにするがいいさ、ミノルには返せないくらいの恩を受けたからな」

「そうか、そう言ってくれるのなら、分身体を通じて今までの料理をエルマ達にも教えてやってくれ」

「今から作る料理共々教えるように、分身体には伝えるよ」

俺はドワーフ族代表との交渉を終えた後、早々にキャンプ地に戻ってアグネスと白虎の料理を作ってやった。今日は午前中に全ての用事を終えることが出来たので、昼食も白虎に任せる事無く俺が作ったのだが、やはり今日もステーキと焼肉三昧だった。

俺とセイが何時もの愚にもつかない会話をしながら料理を作っている横では、白虎も黙々と同じ作業をこなしてくれている。最初は昼食後直ぐに酒を飲もうとしてのだが、それを見たセイが激しく叱責し、同じ作業を真似するようにと言明したのだ。アグネスは何時ものように、ベットでスヤスヤと寝息を立てている。

今俺が作業をしているのはブイヨン作りなのだが、これもドローン配送で手に入れた材料も使った日本式の作り方と、異世界の材料だけで作った物の2種類に大別できる。もちろん試作中で、異世界の材料を色々試しているから、何十もの試作料理を入れた寸胴鍋が並んでいる。

「日本式ブイヨン」
魔獣すね肉 :4kg
魔獣すね骨 :2kg
異世界鳥  :1羽
異世界鶏ガラ:6羽
タマネギ  :2個
ニンジン  :3本
セロリ   :1本
ネギ    :1本
ローリエ  :1枚
タイム   :1本
パセリ   :軸の部分を1本
パセリ・ローリエ・タイムはタコ糸などで縛ってブーケガルニとして使います。

以上の材料を弱火で1日かけて煮込み、煮込んでいる間は眼を離さずにあく取りする。だがあくまでもこれは1例に過ぎず、魔獣肉と言ってもオープレイ、ジャイアント・レッドベアー、ジャイアント・ブラウンボアはもちろん、ティタノボア、アナコンダ、デイノスクスのすね肉すね骨を使い、色々試しているのだ。いやすね肉やすね骨だけでなく、その魔獣肉の中で堅い部位と色んな骨を組み合わせて試してもいる。

「日本式魔獣肉と野菜の寸胴鍋ロースト」
魔獣すね肉 :8kg
塩     :適量
胡椒    :適量
小粒じゃが芋:4kg
小粒タマネギ:120個
赤ワイン  :5カップ
ブイヨン  :5カップ
バター   :適量
小麦粉   :適量
マスタード :適量

1:魔獣肉は塩胡椒を掏りこんで1時間寝かせる
2:ジャガイモの皮をむき水に漬けてあく抜きをする
3:あく抜きの終わったじゃが芋に塩胡椒をする
:小粒なジャガイモのない時は1/2や1/4に切る
4:タマネギも皮をむき塩胡椒する
5:フライパンにバターを適量溶かし、1の肉の周囲に焦げ目がつくくらい焼く
6:5の肉と3のじゃが芋4のタマネギを蓋つきの鍋に入れる
:所々にバターを置き赤ワイン・ブイヨンを入れて蓋をする
:熱したオーブンに鍋ごと入れて中火で蒸し焼きにする
:焦げないように途中で水を足しながら1時間程度蒸し焼きする
:水を足す際に竹串を刺して焼き加減を確認する
7:焼きあがったら食べ易い大きさに肉を切り温めた皿に盛る
:残った煮汁にバターと小麦粉を入れてとろみのあるソースを作る
:ソースをかけて完成

「これは結構うまいな!」

「野菜が邪魔だよぉ~主」

「え~い、ミノルはお前などに話しかけておらん!」

「まぁまぁまぁ、そんなに怒ってやるなセイ」

「だがなミノル、白虎は文句が多すぎるのだ」

「種族として食べれないものがあるのは仕方がないさ、食べれない野菜や野草は、この辺に住む草食魔獣に与えてもいいし、街の恵まれない人達に施してあげればいいさ」

「ふむ、ミノルがそう言うなら、それはそれでいいが、街の恵まれない人に施すと言うのは初めて聞いたな」

「そうだな、俺も思わず言葉に出たのだが、だが駄目だな」

「どう言う事だ?」

「開拓村の人達や見習新人達なら口止めできるだろうが、街の人達に日本の野菜を食べさせる訳にはいかないよな」

「まあそうであろうな、ミノルが旅の間に手に入れた異国の野菜と言えば通るであろうが、色々疑われる可能性は有るだろうからな」

「ここは異世界で採取できる野草や香草だけ施す事にするよ」

「まあそれでよかろう、弱肉強食の世界で施しは余り歓心せんがな」

「弱い者は死ねと言う事か?」

「この世界ではそれが常識だ」

「俺がそれを変える訳にはいかないか?」

「人間だけをか?」

「分かっているよ、そんな事をすれば人間ばかりが増えてしまい、増えた人間が食べるために狩る種族が絶滅してしまうと言うのだろう」

「その通りだ、原初の世界樹である我とデュオを組んだミノルが介入しすぎると、絶滅されそうになった種族の原初も報復介入するぞ」

「ほどほどにしておけと言う事だな」

「そうだ、1つの街で施すくらいなら何の問題もない。だがミノルの事だ、いずれ国をまたぐほどの大規模な施しに発展するだろう」

「おいおいおい、俺にそんな力も遺志もないよ」

「力がない? 何を呆けた事を言っている、絶大な原初の力が有るではないか」

「そうか、そうだな、直ぐに忘れてしまうが、セイの力は俺の力になっているんだな」

「そうだ、それに意思がないと言うのがいかんのだ! 確固たる意志がないからこそ、その場その場の状況に流され、情にほだされて余計な支援の手を伸ばしてしまうのだ」

「助けることが出来る力が有るのに、眼にした不幸を見過ごしにしろと言うのか?」

「そうは言っておらん、眼にした不幸に手を貸す程度ならいいだろう。だがイルオンやエルマとその家族を助けるのはいいが、他の見習達まで助ける必要があったのか?」

「何故だ、なぜ助ける必要がなかったと言う?!」

「ミノルがゴーラン一派を滅ぼした事で、すでに大きな流れが変わっていた。イルオン1人を助け教育する事だけで、見習い全体に対する待遇は大きく違っていただろう」

「見習い全員を助け教育する事は、それほど大きな間違いだと言うのか? 眼に見える不幸な人々を助けることが間違いだと言うのか?!」

「ミノルの中では正義ではあるが、この世界での弱肉強食の掟には逆らっている。特に今のように恐ろしいほどのレベル向上をさせては、それこそこの世界の力のバランスを崩させ、人間族が好んで食べる魔獣・モンスター種族の絶滅に繋がる可能性が有る」

「それこそ弱肉強食の掟で仕方がないのではないか?」

「自分の間違いを理解しているのに、自分を誤魔化す為に抗弁するのはよせ。デュオの俺に対する言い訳は、自分で自分を誤魔化す情けない行いだぞ」

「そうか、そうだな、これは情けなさすぎるな」

「だが我もミノルの言う事を利用して、分身体をこの世界に持ち込んでおるから、それほど大きな口はきけんのだがな」

「そうだ、そうだよセイ、お前こそ随分身勝手な行動をしているではないか」

「まあこれは冗談だ、分身体の持ち込みは、原初の人間と話し合ったゲルマン帝国侵攻に対する正当な賠償だ」

「そう言う事か、だがそれなら俺のやった事も賠償の範囲で納まるのではないか?」

「今のところは納まってるが、ある程度のところでレベリングは中止しろと言っているのだ」

「なるほど、そう言う事ならなおさら料理術も教えておいてやりたいな

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