初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第114話酒場巡り2

「ミノル様、聞いておられますか?!」

「ああ、ちゃんと聞いているよ」

(朝から酒場とは、この娘も豪快だな)

(今日は遅番なんだそうだが、朝からこんなに飲んで、夜の勤務は大丈夫なんだろうか?)

(本人がミノルをこの店に連れ込んだんだ、大丈夫なんだろうよ)

(まあそうなんだろうけど、万が一俺の歩合が有るから働かなくてもいいと、安易に考えているのなら嫌だな)

(それもあり得るが、昨日ミノルが抱いてやらなかったから、自棄になっているんじゃないのか?)

(あのなぁ~、嫌がらせでいい加減な事を言わないでくれ)

(全くない話では無かろう、まあ、醜態を見せてしまったのに何の手出しをしなかったミノルに、昨日の今日で会うには酒の力が必要だった可能性もあるな)

(その言い方は俺が悪いみたいじゃないか)

(ミノルの故国の言葉に「据え膳食わぬは男の恥」と言うものが有るではないか)

(そんな言葉まで覚えなくていい!)

「ミノル様、本当に聞いてますか?!」

「ああ聞いているよ、商人を通じて酒を卸す話を進めていいかどうかだろう?」

「はい、ミノル様は本当のところどう思われているのですか?! それをお聞かせして頂かないと、私もどう動いていいか分かりませんよ~」

「そうだな、ちゃんと言わないとオードリーに迷惑をかけてしまう事になるな、じゃあ言っておこう」

「はい、ちゃんとお聞かせください。オードリーはミノル様の為なら何だってさせて頂きます」

(なんだってだそうだぞ)

(セイはチャチャ入れずに黙っていてくれ!)

「ありがとう! 出来れば直接ドワーフ族に酒を卸して、酒の力でドワーフ族を支配下に置きたいんだ」

「! 本気ですか?!」

「出来ればだ、出来ればそうしたい」

「分かりました! 出来る限り手を尽し準備させていただきますが、時間が必要です。それでも、時間を掛けたからと言って、絶対に成功できるとは断言できません」

「厳しいことは分かっているよ、だけど挑戦していんだ」

「はい、分かりました。では、押さえるべきドワーフ族の重鎮を調べあげ、彼らを通じてドワーフ族全体を支配下に置けるか考えてみます」

「頼んだよ、じゃあ話は決まったね、後はワインを愉しもうよ」

「はい! ミノル様、この店は1度は来てみたかったんですが、格式が高くてなかなか入れなかったんです」

「へ? そんな店なのに俺みたいな一見客をよく入れてくれたね?」

「ギルドマスターに、特別な冒険者を接待するからと連絡を入れて頂きました」

「それって俺だとバレバレじゃないか? ドワーフ族が嗅ぎつけてくるんじゃないか?」

「それは大丈夫です、この店は領主様も来られるお店ですから、ドワーフ族は基本入れないんです」

「それは種族差別になるのかな?」

「それもないとは言えないんですが、表向きは酒癖とマナーが悪いと言う理由です」

「なるほどね、領主に酒癖とマナーが悪いと言われれば、反論しにくいな」

「はい、それで種族差別主義の人間や、ゆっくりワインを愉しみたい者の憩いの場所になっているんです。もっとも私のような庶民には入れないんですが」

「でも1度入れれば次回からは入れるんじゃないの?」

「それでも難しと思います、樽売りの最低価格であれですから」

オードリーは、壁に張り出されているワインメニュー表に眼をやった。確かに俺がテトラで調べたワイン料金の数倍している。しかもあれが、この店の最低ランクのワイン料金であって、年代別に分かれている銘ワインだと、何十倍もの値段がすると言うのだから驚きだ!

「ワインメニュー表」:酒精度数:樽(160L)売り料金(金貨)

モスカート・ダスティ       :5~6・5%    : 4
リースリング           :7~8%      : 8
ランブルスコ           :11・5~12・5%:12
ピノ・グリ            :12~13%    :14
ボジョレー            :12・5~13%  :14
ソーヴィニヨン・ブラン      :12・5~13%  :14
ピノ・ノワール          :13~14%    :18
マルベック            :13・5~15%  :18
シャルドネ            :13~14・5%  :18
カベルネ・ソーヴィニヨン     :13~14・5%  :18
サジョベーゼ           :13~14・5%  :18
シラー              :13~14・5%  :18
バロッサバレー          :14%       :20
ソーテルヌ(甘白のデザートワイン):14・5%     :20
ジンファンデル          :14~15・5%  :20
グルナッシュ           :14~15・5%  :20
アマローネ・デラ・バルポリチェッラ:15%       :24
マスカット(甘いデザートワイン) :15%       :24
ロンバウアー           :15・9%     :24
ランチョ・ザバコのジンファンデル :15・9%     :24
モリードゥーカー         :16%       :30
ポートの酒精強化デザートワイン  :17~21%    :40
マデイラの酒精強化デザートワイン :17~21%    :40
シェリーの酒精強化デザートワイン :17~21%    :40

さらにこの店には立ち飲みなどは無く、テーブル席が基本でカウンターにも椅子が設けられている。だから当然テーブルチャージが必要になるし、樽買いしてチャージせずに杯で注文すれば、これも当然のことながら割増料金になる。

この店を本当に楽しみたいのなら、杯(さかずき)1杯で庶民の年収に匹敵するような当たり年のワインを注文し、同じく法外とも思える金額の肴や料理を、店の勧めるままに食べれる位の余裕が必要なのだ。

「率直に聞くが、俺がジャイアントレッドベアーを冒険者ギルドの売れば、オードリーにもかなりの歩合が入るんだろう?」

「はい! よろしくお願いします!」

「1%の歩合だったとしても、俺が10頭売ればオードリーに560枚の小金貨が手に入るんじゃないのか?」

「そんぁ~、1%も無理ですよ、基本給もいただいてるんですから」

「0・1%くらいなのかい?」

「まぁ、そんなものですよ」

「小金貨で56枚か、確かに大金だけど、この店で毎日散財すると訳にはいかないね」

「そうでしょう、でも今日は全部ミノル様が払って下さるので、安心して飲むことが出来ます!」

「ああ、好きなだけ飲んでくれ」

「あの、料理も頼ませてもらっていいですか?」

「ああいいよ、好きな物を頼んでくれ」

「じつわですね、今日この店にメイヤーオークの肉が納められたんですよ、それをぜひ食べてみたいんですよ!」

「ああいいよ、ただ俺は人型は食べれないから、四足の魔獣料理から選ばせてもらうよ」

「ありがとうございます! そうなんですね、でもミノル様は普段からジャイアント・レッドベアーの肉を食べられておられるんですよね? だったら並みの魔獣なんて不味くて食べれないんじゃないですか?」

「そんなことはないよ、オープレイやジャイアント・ブラウンボア、グレーボアも美味しいよ」

「そうなんですか? でもジャイアント・ブラウンボアがどんな魔獣か分かりませんが、普通の人はオープレイもグレーボアも食べれないですよ。まあこの街の冒険者なら、グレーボアくらいなら食べれるしょうけど、街の庶民だとファングラットかホーンラビットが精々ですよ」

「そうか、オードリーさんもそうなのか?」

「はい、ここのギルドはお給料はいいですけど、この街の物価自体が高いので同じなんです」

「そうか、じゃあいい機会だし、メイヤーオークを愉しめばいいよ」

俺はウェイターに合図して料理の注文をしようとした。俺がウェイターやウェイトレスに用事がない限り、セイが遮音や隠蔽・幻覚の魔法を展開してくれている。だから誰にも俺とオードリーの会話を盗み聞きすることは出来ないし、空間内で何が行われているかも知りようがない。

セイはこの空間内で、俺に何をさせようとしてるんだ?

「すみません、メイヤーオーク料理が出来ると聞いたんですが、持って来てもらえますか?」

「申し訳ございませんお客様、メイヤーオーク料理は領主様がすでに予約されておられまして、売り切れてしまっているのです」

「えぇ~!」

「本当に申し訳ありません、お嬢様」

「仕方ないよオードリー、それじゃあメイヤーオーク料理と同等の料理とは言わないけれど、君の御勧め料理を教えてくれないかい」

「そうでございますね、メイヤーオークと一緒に狩られたメイジオークのローストなら御用意させて頂けます。同じレベルのファイターオークやアーチャーオークに比べて、柔らかで脂身が美味しいですから御勧めでございます」

「そうか、ならこの子にそれを持って来てくれ、俺は人型じゃない魔獣を食べたいんだが、何かあるかな?」

「そうでございますね、この街では狩られるのは人型モンスターが多いものですから、獣型だとグレーボアかホーンラッドを御用意させて頂く形になりますが?」

「そうか、だったら果物とナッツを適当に見繕って持って来てくれるかな?」

「はい、厳選して御持ちさせていただきます」

「頼んだよ」

「あぁあぁ、残念! こんな機会でも無ければメイヤーオークを食べるなんて一生有り得なかったのに」

「そうかい? オードリーくらいの美人が冒険者ギルドの受付をしていたら、お裾分けしてくれる冒険者がいるんじゃないかい?」

「そんな人いませんよ、みなさん命懸けで狩りをされていますから、銅貨1枚だって他人のために使ったりしませんよ」

「オードリーを口説きたい男なら、少々の出費なんか厭わないんじゃないのかい?」

「そんな女誑しで経済観念のない男は願い下げです!」

「まあそうなるか」

「あぁあぁあぁ、本当に残念だわ。でもそんな事より御免なさいミノル様、ミノル様の口にあわない店に御案内してしまったのですね」

「ああ、そんな事は別にいよ。御蔭でドワーフ族に、少々高い値段で酒を売りつけても大丈夫だと理解出来たよ」

「どう言う事ですか?」

「この店からドワーフ族が締め出されているのなら、格式を取っ払った店で酒を前金で売れば、普通の酒でも相場の何倍の値段でも売れるはずだからね。ましてこの周辺では絶対手に入らない酒なら、何十倍の値段でも売れると言う事だよ」

「そうか、そうですね、この店と同じ酒を手に入れる事が出来たら、同じ値段でドワーフ族相手に商売できるんですね。でもそれは、ドワーフ族の酒癖の悪さに耐えられたらの話なんですが・・・・・」

「御待たせいたしました、こちらがメイジオークのローストでございます」

ウェイターが、一部の隙もない動きでオードリーの前に料理を置いたのだが、正直思っていたより小量だった。こう言う格式の高い店では量が少ないのが当然なのかもしれないが、毎日毎日大喰らいの白虎の料理を作っているから、この量はケチっているようにおもってしまう。

「ありがとうございます」

「こちらが果物とナッツの盛り合わせでございます」

俺の前に置かれた盛り合わせも、メイジオークのロースト程ではないが量が少ない。だとしたら、やはりこの少量がこの店の標準なのかもしれないが、下手をしたら一見客の俺とオードリーに差別していると言う可能性もある。

「ありがとう」

(気にするな、これがこの店の標準だ)

(探ってくれたのかセイ?)

(ああ、ミノルが怒って暴れ出したら困るからな)

(これくらいの事で暴れたりしないよ)

「さあ、冷めないうちに食べてくれ」

「ありがとうございます」

「あ、本当! とても柔らかくて美味しい!」

「そうか、それはよかったね、でもその量で足りるかい?」

「え~と、その~」

「そうだよね、足りないよね。そうだ! 普段食べれない物を食べたいと言うのなら、オープレイを食べてみる?」

「えぇぇぇぇ! いいんですか!?

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