初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第106話懇願

「御師匠様、宜しいでしょうか?」

「何だローザ?」

「新人のリーナの事なんですが、両親が重病で家で寝込んでいるそうなんです」

「俺の魔法を見たから、出来る事なら両親を治してもらいたいと言っているんだな」

「そうなんです、こんな高待遇で迎え入れてもらった上に、更に願い事をするなどと言う事は、厚かましいことと分かっているようですが、両親を思うあまり私に相談して来たのです」

「そうか、構わんぞ」

「え?! いいのですか?」

「構わん、魔法を使ったからと言って何が減るもんじゃない。俺の回復力なら、魔力なんか直ぐに回復するからな」

「え~と、それで対価なんですすが、本人は自分が奴隷になるから言っているんですか・・・・・」

「俺は奴隷商人じゃないし、身の回りの世話をしてくれる人間も不要だ。そうだな、この国の常識からしてと言う訳にもいかないし、変に噂が広まると、休む暇がないくらい治療を願いう人間が押し寄せてしまうだろう。俺のクラン所属員だから特別待遇と言う事で、治療費を貸すと言う形でやろう」

「ありがとうございます! 御師匠様!」

「礼には及ばんよ、そうと決まれば早い方がいいな、今からリーナの家に行こうか」

「え?! 今からですか!?」

「奴隷に身を落とす事を考えるほど切羽詰まっているんだろう? 亡くなってしまうと手の施しようがないから、治すと決めた以上、早ければ早いほどいいよ」

「はい! 今直ぐリーナを連れて来ます」

「ああ、待っているよ」

(いいのかミノル、アグネスに早く会いたいのではないのか?)

(仕方ないだろセイ、親を想う子供の心情を無碍(むげ)にするわけにはいかないじゃないか)

(ふむ、そう言うものか? 人間族には親を親とも思わぬ子も多いし、子を平気で奴隷に売り払う親も多いぞ。いや、一時の欲望で、子を虐待したり性の捌け口にする親すらおるぞ)

(まあそうかもしれないが、リーナと言う子は親を大切に思っていると言うではないか、ならばこんな世界だからこそ、その心を大切にしてやりたいじゃないか)

(まあミノルがそう言うのなら、それはそれでよかろう)

(だからセイには、白虎にアグネスの晩飯を頼むと念話で頼んで欲しい)

(仕方あるまいな、白虎はともかくアグネスを空腹にさせるのは可哀想だからな)

(ああ、そうなんだ、頼むよ)

(うむ、任せよ)

「御師匠様、リーナを連れて参りました」

「そうか、ではリーナと行ってくるから、ローザはもう1人の新人を頼むぞ」

「はい、お任せ下さい。自分だけ蔑ろにされたなどと誤解しないように、親身に話を聞いてやります」

「うむ、ローザに任せれば安心だな」

「ありがとうございます!」

新人が誤解して天狗にならないように、村に移動する初日に森での狩りを体験させた。表向き魔法による支援をしない体裁だったので、多くの見習いが重軽傷を負った。さすがに治癒の支援をしない訳にはいかないので、何度も何度も治癒魔法を使っていた。特にブラッド・タイガーの襲撃では、索敵役が喉を一撃で噛み破られ即死状態だった。だが見習や新人達には、重体と言ってチャッチャッと蘇生した。

その後もデイノスクスに噛みつかれて重傷を負う者や、手足を噛み千切られる者もいた。そう言う場合は仕方がないので、俺がデイノスクスを一撃で殺し、飲み込まれた手足を取り戻し、治癒魔法でつないでやった。もちろん尾の一撃で内臓破裂を負った者も直ぐに治癒魔法をかけたが、骨折を負ったくらいならそのまま狩りを続行させた。

この狩りを実施した事で、見習達は初心を思いだしたし、新人達は貴重な初体験を得た事だろう。驕りや油断は、死につながる取り返しのつかない失敗に繋がるから、繰り返し繰り返し教訓を与えて行かなければならない。

そして俺のこの行為が、両親が病に臥せっていたリーナに、自分が奴隷になってでも治癒魔法を施して欲しいと思い詰めさせたのだろう。まあそれは仕方がない事だ、目の前で死んだと思った程の重体者が治ったり(本当は即死していたんだが)、食いちぎられた手足が元通りに治ったのだから。




「なあエルマ、両親を治したいんだろう? それには薬が必要じゃないか、だったら金が要るんじゃないか?」

「それは・・・・・」

「分かってるんだろ、どんなにエルマが薬草を集めようが、そんなもんじゃ両親が治らない事はよ。悪いようにはしないよ、いい所を紹介してやるからよ、俺に任せろよ」

「でも、私まで両親の元を離れてしまったら、世話する者がいなくなってしまうわ!」

「それは俺に任せろよ、ちゃんと面倒見てやるよ、だから俺に奉公先を世話させろよ」

「本当なの?! 本当に奴隷じゃないのね?!」

「大丈夫だよ、ただ前金を貰う為に建前だけ奴隷にしなきゃならねえ。だが俺が口を利いてやるから、おかしなことはさせられないよ、安心しろよ」

「でも、だって、奴隷契約にはサインするんだよね」

「建前だけだよ、大丈夫だよ、俺を信じろよ」

もう聞いてられん!

「下衆が!」

俺は気配を消したまま、女を騙そうとしていた女衒(ぜげん)のような男をぶちのめした。

「グチャ!」

電光石火の一撃で下顎骨を粉砕骨折させ、聞き苦しい大きな悲鳴をあげれないようにした。その上で連続側方蹴りで膝蓋骨を含めた膝関節も2度と動かせないように粉砕骨折させた。まだ気分がおさまらないので、上腕骨頭を含めた肩関節に正拳突きを叩き込んで、関節ごと粉砕骨折させて2度と肩を動かせないようにした。

「お嬢さん大丈夫かい? こんな嘘つきの言葉に騙されてはいけませんよ」

「お姉ちゃん!」

ああやっぱりそうか、リーナに案内させて、リーナを御姫様だっこして飛ぶようにここまで駆けてきたけど、実家の前でリーナに似た娘を、いかにも下衆な男が口説いていたから問答無用で叩きのめしてやった。

「リーナ! どうしてここに?!」

「お世話になっている冒険者の御師匠様に、お父さんとお母さんを治して下さいとお願いしたの!」

「え? お父さんとお母さんを治して下さるのですか!」

「ええ任せて下さい」

「ありがとうございます! どうか、どうか、お父さんとお母さんをおねがいいたします」

「では家に入らせてください」

「はい、はい、あ! でも、この人は村長の息子さんだから……」

「大丈夫ですよ、さっきの様子だと、どうせ放蕩息子でしょう。父親の村長に疎まれているのなら、どれほど叩きのめしても大丈夫です。もし村長もグルなら、村長も叩きのめしてやりますよ」

「え? でも、村長様の命令には村の自警団も逆らえないと・・・・・」

「大丈夫よお姉ちゃん! 御師匠様は巨大なデイノスクスだって一撃で倒してしまわれるのよ!」

「え! デイノスクスを一撃で倒してしまわれるの?!」

「本当よ! 今日初めて狩りに連れて行ってくださったけど、先輩の冒険者が腕や脚を食いちぎられるようなデイノスクスを一刀で切り倒された上に、魔法でちぎれた手足を元通りに治されたんだよ!」

「え!? ちぎれた手足を治すことが出来るの?!」

「御師匠様はお出来のなるのよ!」

「さあ、話をするよりも、先に御両親を治そうじゃないか」

「「はい!」」

(セイ、どう思う)

(ミノルもリサーチしたのであろう)

(ああ、病原菌による疫病だな)

(ふむ、確かに疫病だ、このリーナの姉とやらの身体にも病原菌が巣食っておる)

「「「お姉ちゃん!」」」

「あ? リーナ姉ちゃん!」

「ただいま、カルロ、アイーダ、クリス」

「その人はだぁれ?」

「お姉ちゃんが冒険者になったのは分かるわね? カルロ」

「うん! 分かるよ」

「この方は冒険者のお師匠様なのよ、お父さんとお母さんを治して下さるのよ!」

「おじいちゃん、本当?!」

「これ! おじいちゃんじゃありません、お師匠様です!」

(ミノル、御爺ちゃんだとよ)

(胸が痛いが仕方ないだろうな、この世界は結婚も出産も早く、老成するのも早いのだろう?)

(現役で冒険者を続ける者は別にして、村の中だけで暮らして行くような者は、50歳で長老になる事も多い)

(若いつもりでも、俺も50を越えているからな。そんな事よりも、この子達にもリサーチをかけたか?)

(ああ、この子らも病原菌に犯されているな)

(今はまだ症状が出ていないようだが、若いうちは無症状なのだろうか?)

(詳しく調べればよかろう)

(いや面倒だしいいよ、調べなくても治せるんだろう?)

(大丈夫だ、リーナも含めて7人家族だ、デカキュアをかければ全員完治する)

(じゃあそれで行こう)

(だが村ごとこの病原菌に犯されていたらどうするんだ?)

(さっきのような男が、大手を振って村中を歩いているんだ、リーナの家族さえ助けられればいい。もし親切な村人もいるのなら、その時はその村人だけ助けるさ)

(ふむ、ミノルの親切の基準は分かり難いな)

(そうだな、俺も自分でよく分からんよ)

「リーナ、よく聞くんだ」

「何ですかお師匠様?」

「今魔法で調べたんだが、御両親だけでなく、リーナも御姉さんも弟や妹達も同じ病気にかかっているんだ」

「え? そんな! お師匠様!」

「落ち着きなさい、心配する事はない、一緒に治すから御両親のベットに集まるように言いたいだけだ」

「あの、リーナのお師匠様、私達も治して下さるのですか? それに私達は元気なのですが?」

「ああ、私にとったら御両親だけを治すのも、家族全員治すのも同じなんだよ。それとこの病気は、同じ家にいるとうつるものなんだよ。ただ若くて元気だから、病を感じないんだ、疲れたりしたら一気に病が表に出て来てしまうよ」

「あの、よく分からないのですが、どうすればいいのですか?」

「そうだな、さっき言ったように、御両親が寝ておられるベットの側に立ってくれるかな」

「お姉ちゃん、みんな、お師匠様がおっしゃるようにして、早く」

リーナの姉弟妹(きょうだい)は、戸惑いながらもベットの側に集まった。俺としたら、2人でも7人でも同じ魔力だから、一緒に1度で済ませた方が楽なのだ。

(そういえばミノル、リーナと一緒にいた新人や見習達は感染しているのではないか?)

(あああああ、帰ってリサーチしてみるよ)

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