初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第100話修練

「気を抜くんじゃない! 一瞬の油断がパーティーの全滅に繋がるぞ」

「「「「「はい!」」」」」

「前衛はメガラニアの攻撃を避ける事の集中しろ、攻撃しようなんて思うな、前衛がメガラニアを引き付け続ける限り、パーティーに1人の犠牲者も出ないんだ!」

「「「「「「はい!」」」」」

ミノル・クラン村と言うべきなのだろうか、新たに築いた拠点の中庭では、1班が必死でメガラニア相手に戦っている。全長9m・体重5000kgの肉食オオトカゲ、メガラニアを見習だけのパーティーで狩るのは至難の業だが、決して不可能と言う訳ではない。

他に敵がいない安全な場所と言うのが大きいのだが、ただ1頭のメガラニアに集中し、後方や側方の警戒をする必要がない。前衛がメガラニアの気を引いた瞬間に、攻撃要員が頭部に集中攻撃を仕掛けるのだ。1番攻撃速度の早い者が右から攻撃すれば、メガラニアは右に注意を向けて反撃しようとする。

今度はその隙をついて、1番重い攻撃が出来る者が、左側から必殺の一撃を仕掛けるのだが、左右の後方にも牽制要員がおり、主力攻撃の2人がメガラニアに狙われないように牽制をする。もちろん1番牽制が上手い前衛が、常にメガラニアの正面で牽制を続けてはいるが、前衛を生贄にするわけではないので、第2第3の牽制役がいるのだ。

1班は7人編成だから、もう2人のメンバーがいるのだが、彼らは主力攻撃の2人の後方に位置し、主力が攻撃を終えて後方に逃げる間に、弓による追撃・2次攻撃を仕掛けるのだ。これが次に攻撃する反対側主力の、牽制支援にもなるのだ。

1班班長のイルオンは、全体指揮を執る関係上、前衛や主力攻撃・牽制をするわけにはいかず、比較的集中しないで済む2次攻撃役をしていた。イルオンの的確な指示と、各班員の事前訓練がよかったのだろう。見習だけのパーティーとは思えない早さで、メガラニアが仕留められた。俺が支援魔法を使わずに、見習達だけでメガラニアを斃せたことは非常に大きな成果だ!

「よくやった! 次は2班だ、準備しておけ」

「「「「「はい!」」」」」

1班達が円形城壁の中に休憩に入るの入れ替わりに、2班が緊張した表情で中庭に出てくる。

(セイ頼むよ)

(任せろ)

返事と同時に城壁外に強制待機させられていた、メガラニアの1頭が空に浮かされて城壁内に運ばれてきた。

そうなのだ、メガラニアの群れが城外に屯しているのだ!

俺が見習達を率いて、メガラニアやデイノスクスの群れの居る場所に行こうとしたら、事もあろうにセイが群れの方を連れて来ればいいと言いだしたのだ!

まるでローマの円形闘技場での見世物で、最初は嫌悪感しかなかったのだが、よくよく考えれば危険な道中はないし、光魔法を駆使すれば夜中まで訓練をする事が出来る。何より直接訓練する者以外は、安全な城壁内で休み他の事が出来るのだ。

セイに具体的にはどうするんだと聞くと、重力魔法と風魔法を駆使して、適当な獲物を空に浮かせて運んでくるなどと言うのだ。てっきり転移魔法を駆使するのかと思っていた俺は、虚を突かれると言うか、意外なやり方に驚いてしまった。

だがセイが言うには、転移魔法が使えるとなると、各国の権力者から目をつけられ、余計な揉め事や戦いに巻き込まれる危険があると言う事だった。俺としても面倒事は避けたいので、セイの言う通りに魔法を使ったのだが、見習達にはメガラニアやデイノスクスがプカプカと空に浮いているのは衝撃的な光景だったようで、ますます尊敬される結果になった。





「無理しなくていい、お前達は午前の狩りに参加していないから、経験値を稼げていないんだ、1班2班3班のように出来なくて当然なんだ」

「「「「「はい!」」」」」

元気よく返事はしてくれたものの、その声色の中には隠しようのない悔しさが籠っていた。俺も迂闊(うかつ)だったのだが、午前の狩りに参加していた1班2班3班は、想像以上の経験値を手に入れており、6班7班とはレベル差が起こってしまっていたようなのだ。

1班2班3班が順調にメガラニアを仕留めたのに、6班はなかなか倒せないどころか、後方牽制役が尻尾の一撃を受けて重傷を負ってしまったのだ。もちろん俺が即座に治癒魔法をかけたのだが、6班のメンバーは、1班2班3班との差に悔しい思いをしているようだ。

だが午前の狩りでは俺が多少の支援をしているし、狩った相手もアナコンダでメガラニアよりも楽な相手だった。ここは俺の支援魔法で、メガラニアの動きを悪くしたり眠らせたりして、1班2班3班達にレベルが追い付くようにしてやらないといけない。




「俺は街に戻って、お前たちが野営すると残った者達に伝えてくるから、お前達は飯を喰ってろ」

「「「「「はい!」」」」」

「実っている果物は何でも食べていいし、オークも好きなだけ食べろ」

「「「「「はい! ありがとうございます」」」」」

今回参加した見習達が、ほぼ同じレベル経験値になるまで訓練を続けたが、その為にはどうしても時間が掛かってしまった。もうすぐ完全に陽が暮れてしまうが、このまま何の連絡もしないと、街に残った見習達に心配をさせてしまう事になる。

今から無理をして全員で街に帰還するよりも、俺が単独で戻った方が早いし安全だ。何よりあんな衛生状態が悪い見習い部屋に、ギュウギュウに押し込まれては休むに休めない。特にここにいる見習達は、4人部屋とはいえ高級ホテルのような新居を見てしまった後だ、あの部屋で雑魚寝はしたくないだろう。

だが今回の訓練には保存食しか携帯させなかったから、硬くて塩辛い干肉と堅パンしか晩飯の材料がない。分身体が実らせてくれる、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しい果物は食べ放題なのだが、俺としたら美味しい肉のある晩飯を見習達に提供してやりたい。

幸いと言うのはおかしいが、俺が食べたくないオーク料理がアイテムボックスの中に沢山入っている。だから31人の見習達には多いくらいだとは思ったが、以下の料理を置いておくことにした。彼らは今まで食べた事のない果物を、腹一杯食べたかったかもしれないが。

オークの丸焼き:10頭
オーク胴体のマスタード煮:寸胴鍋1杯

「俺も色々やらねばならない事がある、朝飯はこれの残りを食べるか、部屋に実っている果物を食べてくれ」

「「「「「はい!」」」」」

(焦っているのか)

(うるさい!)

(そんなにアグネスの事が気になるなら、あんなに熱心に訓練に付き合う事はないのだ、明日も明後日もあるではないか)

(本当にうるさい奴だな、公平と言うのは大切だし、今日訓練しない事で明日彼らが死ぬかともあり得るんだ)

(分身体が護る事になったんだ、死ぬことなどありえんよ)

(頭では分かっているんだ、だが心が納得しないんだ)

(人間とは不便なものだな)

(いちいちうるさいんだよ、いいかげん黙ってろ!)

セイと他愛のない言い争いを念話で繰り返しながら、まさしく飛ぶような速さで街についたが、いかんせん陽が暮れているので城門は閉っている。まあこの程度の城壁を越えるのは簡単だし、警戒の為にかけられている魔法を掻い潜るのも、お茶の子さいさいだ。

俺は見習部屋に行き、安全な宿営地を創り出したから、今日訓練に出たパーティーは野営すると、居残った者達に伝えた。同時に明日は朝食後に当番班を連れて戻ってくるから、それまでは新人たちの訓練をしておくようにと伝えた。

よし、これでアグネスのところに戻れるぞ!

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