初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第39話捕縛劇

おろ?

俺が手出しするまでも無いのだろうか?

ギルドマスターは身長190cm程度でゴーランよりは低いし体重も80kg程度と考えられるが、身のこなしから余分な体脂肪などないと考えられる。伊達や酔狂(すいきょう)でギルドマスターを務められるはずがないから、冒険者としても際立った実績があるのだろう。

現にギルドマスターの視線は、ゴーランだけでなく一味の者がどう動くかまで追っている。冒険者が乱暴したり、強盗犯になる事も想定していたのだろう、受付内の職員もギルドマスターの決断に応じてボーガンを用意してやがる。

さっき俺を助けようとしてくれた女冒険者は、ゴーランや一味の者が逃げ出さないように、入り口を封鎖すべく徐々に移動して、戦いで優位な位置を占めるようにしている。

一方ゴーランや一味の者は、ギルドマスターの言葉と動きに惑(まど)わされ、受付内の動きも女冒険者の動きにも全く気付いていない。これではすでに勝負がついたも同然だから、俺は動かないようにしよう。

女冒険者の移動が完了したと思った途端、ギルドマスターが目にも止まらぬ動きでゴーランに突きを入れた。普通の人にはギルドマスターの動きは分からないだろうが、レベルが恐ろしいほど上がっている俺は、動体視力も上がっているようで、意識して動きを負えばスローモーションのように見ることが出来る。

ギルドマスターが放った4段突きは、ゴーランの鎧の隙間を的確にとらえ、肩関節と股関節を突き刺し破壊していた。人体の骨格や筋肉・神経の位置は頭に入っているから、ギルドマスターの攻撃がゴーランを寝たきりにするだろうことが理解できる。

「動くな! 動けばマスター権限で斬首に処す! 素直に捕縛され罪を自白すれば正当な裁判にかけてやる、さあ! どうする!」

ギルドマスターの言葉を受けて、受付にいた全職員がボーガンを構えてゴーラン一味に狙いをつけた。女冒険者の仲間も、剣を抜いてゴーラン一味に何時でも攻撃できるように構えた。

ゴーラン一味の1人が武器を捨てたのをきっかけに、全ての一味の者が武器を捨てることになった。

「さて依頼人殿、こちらで話を聞かせていただきたいのですが?」



「ミノル殿、ギルドに依頼に来て頂いたにもかかわらず、脅迫事件に巻き込んでしまい申し訳ない」

「いえいえ、どこにでもどんな組織にでも、下劣な者が一定割合紛れ込むのは仕方ありません」

「そう言って頂けると助かるが、なかなか教養が御有りなのですね」

おっといけない!

今は危機に陥った開拓村の猟師だと言う設定なんだ、あまり教養が有るのは不味(まず)いんだった。だが今更言った言葉をなかったことには出来ないから、このまま行くしかないな。

「出来る限り色々な面で努力してきました、褒めて頂けると努力したことが報われる思いです」

「なるほど、開拓村のような物資の限られるところでも努力されてきたのですね。それだからこそ、あの場であれほど的確な対応が出来たのでしょうね」

「重ね重ねのお褒めの言葉、赤面の至りでございます」

「いえいえ、努力は報われ役に立つと言う事、これは若い者たちへの好い手本になります」

「いやもうそれくらいで許して下さい、それより依頼の件を聞いて頂きたいのです」

「分かりました、聞かせていただきましょう」

今ギルドマスターに直接依頼を受け付けてもらえると言う高待遇を受けているのだが、これはゴーランへの罪状摘発を俺に依頼すると言うギルドの都合が有るのだろう。そうでなければ、ただの猟師の依頼など一般受付職員の仕事だ。

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