初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第31話トンカツ

(白虎か、いい所に帰って来てくれた、美味しい物を食べさせてやるから、解体と料理を手伝ってくれ)

(え~、なんだよ食べるだけがいいよ)

(馬鹿者! 愚図愚図(ぐずぐず)言わずにさっさと料理せい!)

(はい! ごめんなさい)

アグネスを驚かさないように念話を使ってみたが、どうにも慣れないので喋(しゃべ)ってしまいそうになる。

白虎はナマケ者で食意地(くいいじ)がはっていて大酒飲みだが、以外と心優しく気配りも出来るようで、何も言わないのにアグネスを驚かさないように気配を消してくれている。

(豚解体法リサーチ)

俺は鶏以外の動物の解体法を知らないのだが、開拓村で内臓を取り出し1頭丸焼きにする方法は学ぶ事が出来た。だが正肉を綺麗に部位ごとに切り分けることは無理だ、いや、目的の部位だけを綺麗に切り取ることは出来る。だが周りの部位を傷つけ商品価値を失わせてしまうのは確かだ。

それに動物を解体するのは、かなりの体力と精神力を削られる。亡父が鶏の小売をしていたから、小学生の頃から店売りは手伝っていた。店は弟が引き継いだから、俺自身は鶏を捌(さば)いた事はないが、どう言う手順でどこに包丁を入れればいいかは分かっている。

だが豚や牛の解体法は動画で見たくらいで、生で繰り返し繰り返し見た訳ではないから、今ここで実演できるとはとても思えない。何より自分で狩りの獲物を解体するのは、時間がもったいないと思っていたが、アグネスの興味を引くには獲物を解体するのが1番いい気がする。

下手でもやり遂げる気になっていたのだが、リサーチの魔法で豚や猪の解体法を観ることができないかと試しに心の中で唱えてみたら、あっさりと頭の中に映像が現れた。

(猪解体法リサーチ)

さて、何度も繰り返し観たことで、下手は下手なりに解体出来る気がしてきた。まあ観て知っているのと、実際に自分の手でやり遂げるのは全く別物だから、個人的に期待しているのは白虎の風魔法だ。

白虎はセイに命じられて風魔法を駆使して料理を作っていたが、魔法であれだけ細やかな作業が出来るのなら、ボアやオークの肉を商品価値を下げずに解体出来るはずだ。

俺は開拓村で鹿のように皮を剥がれ、内臓と商品価値のある生殖器を抜かれ、丸焼き用になっているボアを取り出した。

動画の説明を観ていると、解体法の最初に行う毛の処理は大きく分けて4つあるようだ。

1つ目は、今取り出したボアと同じように皮を剥ぐタイプの方法だが、これのメリットは毛皮として商品価値を残すことが出来る。

2つ目は、髭剃りのように毛を剃る方法で、毛の質によっては毛と皮の両方に価値を残すことが出来るが、肉を捌く時に飛び散った毛が付着する可能性が高い。もっとも風魔法と水魔法を駆使する事が出来れば、不要な毛を一カ所に集める事は簡単だろう。

3つ目は、バーナーで毛を焼いて擦り落とす方法だが、俺たちなら火魔法で焼いてしまえるだろう。もっとも毛が使えなくなると同時に皮も食べる以外の利用法が無くなる。

4つ目が熱湯をかけて毛をむしる方法で、これは屠殺場で豚を処理するのと同じ方法なのだが、これも皮を食べることができる。なにより熱湯をかけるのでマダニなどの表面の寄生虫を排除できるし、毛を洗い流すので、精肉の時に肉に毛が付着し辛いし、毛根も抜くのでブロック肉の状態で毛が伸びる心配がない。

ここから先の細かい作業はグロテスクなので説明は止める!

ただ俺には風魔法を解体作業に使えるほどの技量はない、セイに教われば使う事は出来るだろうが、ただ傷つけ殺すだけの破壊力優先の魔法でしかないだろう。

俺が悪戦苦闘しながら映像の手順に従って解体するのを見ていた白虎は、いとも簡単に、しかも肉の商品価値を下げる事無く見事に解体してのけた。

俺がボアを解体するのを見て、白虎はオークを解体すると言う、とても困難で無茶な要求にもかかわらずだ!

時間はかかったものの、アグネスは興味津々に解体作業を見ていた。食欲が刺激されたようで、満腹にもかかわらずセイが与えるオーク丸焼きの切り身を何度も何度も食べていた。

ボアとオークは肩・肩ロース・ロース・ヒレ・バラ・モモ・外モモに分けて解体されたが、アグネスに食べさせてあげたいのはトンカツだ。香りのきつい香辛料は使いたくないし、野菜も食べてくれるか分からない。白虎やリュウが肉食だし、野菜と一緒に煮たり炒めたりするものは却下だ。

以前買い揃えていた調味料とフライヤーを取り出して、いざ料理に取り掛かるのだが、使う部位はもちろんヒレ・ロース・肩ロースだ。

おっと!

白虎が使うフライヤーも買っておかないといけない、白虎用はもちろんリュウが不意打ちしてきた場合に備えて、作れるときに出来るだけたくさんの料理を作り置きしておくべきだ。

23リットルの業務用プロパンガスフライヤー:104084×4=416336

ロースはキメが細かく柔らかい肉質で、フチの脂身の部分にも旨味が凝縮されている、人によっては1番美味しいと言う部位で、トンカツはもちろんポークソテーや焼き豚・ロースハムにしても美味しい!

肩ロースは赤身の中に脂肪が粗い網状に混ざる肉質で、濃厚でコクのある味わいだ。カレーや焼き豚・焼肉・しょうが焼きなどにしても美味しいが、下ごしらえのスジ切りさえ丁寧にすればトンカツにしても美味しいのだ。もちろんどんな料理にするにしても、下ごしらえのスジ切りは丁寧にしなければならない。

ヒレは脂肪分が少ないのに柔らかい肉質で、美肌効果があるビタミンB1が最も多く含まれ、ロースと並んで豚肉の中で1番良質の部位と言われているが、脂肪分が少ない分トンカツやポークソテーなど油を使う料理にするのが1番美味しく食べれると思う。

一口サイズに切った3種の肉は、丁寧にスジ切りをして塩だけで下味をつけて、柔らかくなるように肉叩きで適度に叩く。

3つのバットに小麦粉、よく溶いた卵と牛乳混ぜた物、パン粉を並べ、手早く順番に肉に衣をつける。ただ厚めにつけると肉と衣が離れるので、余分な小麦粉を叩いておく薄い衣にすようにする。

衣をつけた肉をフライヤーに入れて行くんだが、フライヤーに入れたサラダ油を170度に維持するように、入れる肉の量には注意する必要がある。じっくりと3・4分揚げるのだが、肉から出る泡が細かくなり衣がきつね色になったら、油きりに移して余熱で中まで揚げるのが俺流だ。

揚げる時間が長すぎると、せっかく叩いて柔らかくした肉が固くなるので、揚げている時は集中した方がいい。電話に出たり訪問客対応して、火事を起こしたら洒落(しゃれ)にならない。

「ミャー」

解体に続いてトンカツを揚げる香りに刺激されたのだろう、満腹のはずのアグネスがもの欲しそうに近寄ってきた。

「アグネス、お食べ」

セイがオークのヘレ肉を揚げたトンカツを、風魔法を使って俺の手元に運んでくれた。人型モンスターを食べれない俺の為に、ボアのトンカツをアグネスにあげないで済むように、白虎が揚げた物を奪ってくれたのだろう。

俺に気を使ってくれる優しさがあると同時に、白虎を平気で足蹴(あしげ)にする意地の悪さもある。味方である内は頼りになるが、敵に回ったら情け容赦なく俺を殺そうとするかもしれない。デュオの制約や限界をよく勉強しておかないと、ひどい目にあう可能性が高い。

アグネスは美味しそうにトンカツを食べていたが、すでに十二分に食べていたから、3切れほど食べて満足したようで、その場でスヤスヤと眠ってしまった。だがよほどオークのトンカツが気に入ったのだろう、トンカツが山のように盛られた、セイか白虎が魔法で創り出したのであろう深皿を抱きかかえるようにして寝ている。

なんとも可愛らしい寝姿なのだが、この子を連れて人の街に入ることは不可能だろう、絶対に大騒動(おおそうどう)が勃発(ぼっぱつ)してしまう。人の街には入りたいのだが、今更この子を見捨てる気にもならない。

さてどうしたものだろう?

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