政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全

第15話アレクサンダー視点

油断だった。
敵にばかり気をとられていた。
いや、こいつらも敵だ!
己の欲望を満たすためならば、国も民も殺して構わないという。
貴族の面汚しだ!

そんな事を考えながら、だが時間を浪費することなく、自然と治癒魔法を使う。
常に前線で戦い続け、無意識でできるようになった事だ。
ソフィアを裏切者の剣から救えたのもそのお陰だ。
ギリギリ心臓からそらしたから、即死を避けられた。
自分が盾になって傷を受ければ、決局誰かが代わりをしなければいけなくなる。
狙われた味方の負傷を最低限に減らし、治癒魔法と反撃を準備する。
それが実戦での戦い方だ。

そして、裏切者は絶対に許さない!
味方を背後から殺そうとする者は絶対に許さない!
そんな事を許したら、この国は崩壊する。
いや、もう国の事など知った事か!
身体を張って国を護っている娘を殺そうとするイヴリン王妹。
そんな腐れ外道を許す王族など知った事か!

「ちい!
役に立たないばかりか邪魔までするか!
王妹殿下のご威光に逆らう痴れ者が!」

ジェリコー伯爵家の四男ジュリアン。
伯爵家の生まれながら、騎士程度の魔力しか受け継がなかった男。
独立した騎士位を手に入れるため、前線志願したものの、常に後方にいる臆病者。
イヴリン王妹の愛人になったという噂は本当だったか!
まただ、また同じ過ちを繰りかえす。
貴族の誇りと良識を過信して大切なモノを失うのか!

「痴れ者?
臆病者の売国奴が何を言っている!
戦いを恐れて敵とは剣を交えようとはしない腰抜け!
騎士の魔力しか持たぬのに、実家の伯爵家待遇を要求する厚顔無恥!
戦わずに騎士位を手に入れようとメス豚のベットで寝屋働きをする!
国を護るために戦う貴婦人を背後から殺そうとする卑怯者!
そのようなモノが貴族のような顔をするな!
この蛆虫野郎が!
他の恥知らずな売国奴共々叩き斬ってやる!」

怒りのあまり、普段の言葉使いを忘れてしまった。
怒りをぶちまけたお陰で、少し冷静になれた。
口論で時間稼ぎしている間にソフィアの治療もほぼ終わった。
復讐はすべきだが、問題は順番だ。
敵国の侵攻には対処しなければいけないが、ジェリコー伯爵家は根絶やしにしなければ示しがつかない。

問題は実際には襲ってこなかったが、この反逆を知っていた者だ。
配下の者たち、特に王家が援軍だと送ってきた者たちの中に、僕の視線を避ける者がいる事。
こいつらの実家はジェリコー伯爵家と同じように、王都をはさんだ反対側。
攻撃するには国の端から端まで移動する必要がある。


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