「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第38話

「サンアリステラ皇国ですか?
貴男はアメリア皇国の使者ではないのですか?」

「はい、確かに私はアメリア皇国の使者でございます。
アメリア皇国の使者ではございますが、サンアリステラ皇国から依頼を受けて、伝言と書簡を携えてきました」

完全な不意討ちでした。
フェルドナンドですら表情を歪めています。
私も同じでしょう。
謁見の場にいる廷臣すべてが、虚を突かれ驚愕の表情を浮かべています。
この時点で我々の負けですね。

「分かりました。
その理由と目的を聞かせてもらいましょう。
いくら大陸の二大強国でも、冗談で済ませるのは非礼過ぎますからね」

「当然でございます。
わたくし共も非礼非常識なのは十分承知しております。
ですが理由があるのです。
それはリポン侯爵です。
この事が事前にリポン侯爵に知られると、余計な騒動が起こるかもしれません。
それを防ぐためです」

「余計な騒動ですか。
どのような騒動が起こると考えておられたのです」

「そうですね。
謁見が叶わなくなるとか。
正式な書簡が盗まれてしまうとか。
使者が殺されてしまうとかですね。
リポン侯爵が手をくださなくても、サンアリステラ皇国の忠臣奸臣が勝手に動くのを、ドミニネック皇帝陛下もジャクソネル皇太子殿下も恐れておられました」

「強国サンアリステラ皇国が一枚岩ではないと言っているのですね。
ドミニネック皇帝陛下とジャクソネル皇太子殿下は、我が国との、いえ、リポン侯爵と友好関係を結びたいという事ですね」

「はい!
なんといってもリポン侯爵はドミニネック皇帝陛下の大叔父に当たられます。
そのあまりにも強大な魔力を恐れた家臣達に、大陸連合魔法学院に追いやれらるほどのかたです。
敵対するのではなく、友好関係を結びたいと思うのが普通です。
それは我がアメリア皇国も同じでございます」

「それは、私ではなく、リポン侯爵と友好を結びたいという事ですか?」

正直少々腹が立ちます。
国境を接していない我が国に、アメリア皇国からの正式な使者、国使が来たのは誇らし事だったのです。
それが、私や国に対して送られたのではなく、フェルドナンドに送られたときっぱりと言い切られたのですから、面目丸潰れです。
まあ、少々溜飲が下がるのは、フェルドナンドが苦虫を嚙み潰したような顔をしている事でしょうか。

「少し違います。
リポン侯爵が仕えるサンファンケーン王国と友好関係を結びたいのです。
それと、これは両皇国の皇帝陛下の提案なのですが、女王陛下は政略結婚をされてはいかがですか?」

はぁあ?
何を言っているのですか、こいつわ!
確かに王配を探していましたが、この場で政略決婚の話をしますか?!
いえ、この場だからこそ政略結婚の話なのでしょう。
三カ国による友好同盟ですから、政略結婚は必要でしょう。
やれ、やれ。
一番割を喰うのは新興で弱小な我が国。
私なのでしょうね。

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