「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第3話

「何度も何度も言って聞かせてきたはずだぞ、アキーレヌ!」

「私が悪いのではありません、父上!
全てはクラリスの陰謀でございます!
父上はクラリスに騙されておられるのです!」

「黙れ!
この愚か者が!
余が女子供に騙されるような愚か者だと申すか!
この、この、この、大バカ者が!」

ああ、ああ。
国王が真っ赤になって怒っていますね。
血管が切れなければいいのですが。
いま倒れられると面倒です。
せめて馬鹿王太子を廃嫡にしてから倒れてくださいね。

「そうですよ、アキーレヌ。
国王陛下の申される通りですよ。
貴男の方がエレノアに騙されているのですよ。
貴男は王太子ではありませんか。
もっとしっかりしてもらわなければ困ります」

やれ、やれ。
もっとしっかりしていただきたいのは、国王陛下と王妃殿下です。
この期に及んで、まだアキーレヌに王位を継がすおつもりですか。
そんなことになったら、国が乱れて滅んでしまいます。
それではファンケン公爵家の家臣領民が困るのですよ。
私には家臣領民を護る責任があるのです。
いいかげん引導を渡して差し上げましょう。

「国王陛下!
王妃殿下!
王太子殿下は騙されているのではありません。
騙された振りをして好き勝手しているだけです!
その事は国王陛下も王妃殿下もご存じですよね?
ご存じなのに、分かっていないフリをして、王太子殿下を護ってこられた。
暗愚の国王陛下と王妃殿下でございますね。
王太子殿下に騙された令嬢。
王太子殿下が地位を笠に着て乱暴した貴婦人。
幾人が自害されたかご存じですよね?
知ってまだ庇うと申されるのなら、国王陛下と王妃殿下がこの国を亡ぼす元凶でございますよ!
知らないと言い張るのなら、嘘つきの卑怯者としか申せませんよ。
この赤の間で処断されるべきは、国王陛下と王妃殿下ではありませんか?」

「何たる暴言!
父上、母上、直ぐに斬り捨てましょう!
近衛兵!
この無礼者を斬り殺せ!
なにをしておるか!
余は王太子であるぞ!
さっさと命令に従わぬか!」

さて、近衛騎士は全く動きませんね。
近衛騎士と近衛徒士をちゃんと分けて呼ぶ。
相手の誇りに敬意を払う。
王太子はそんな初歩的な礼儀作法も分かっていません。
これでは貴族士族の忠誠心など獲得できません。
近寄ってくるのは佞臣ばかりです。

「……クラリス嬢。
アキーレヌを助けてやってくれ。
お願いだ、クラリス嬢。
この通りだ。
どうか、どうか、どうかアキーレヌを助けてやってくれ」

「私からもお願いします。
この通りです。
どうかアキーレヌを助けてやってください」

国王陛下と王妃殿下が深々と頭を下げています。
近衛騎士たちが見て見ぬふりをしています。
愚か者が唖然としています。
エレノアが悔しそうに唇をかみしめています。
もう、見捨てるしかありませんね。


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