「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第1話

「クラリス!
君はなんて下劣な女なんだ!
妹の美貌を妬んで殺そうとするなんて、とても人間のする事じゃない!
そんな畜生のような女とは結婚できない。
余はここにクラリスとの婚約破棄を宣言する!」

舞踏会場が水を打ったように静まっています。
驚いているのではありません。
あきれ返っているのです。
みなこうなると薄々気がついていたのです。
私も同じです。
こうなることは予測していました。
だから対処方法も考えてあります。

「そうですか。
ですが私には何も思いあたることがありません。
王太子殿下とエレノアの親しい人間以外の証人を連れてきてください。
将来の王妃になりたいエレノアと、私という婚約者がありながら、それを裏切って婚約者の妹と不貞を働いた王太子殿下。
二人の陰謀を知りながら、将来優遇されたくて、偽証する人間以外の証人はおられるのですか?
おられるのなら今直ぐ、ここに連れてきてください」

「「「「「ウォオオオオオ」」」」」

舞踏会場がどよめいています。
私がこういう切り返しをするとは、誰も思ってもいなかったのでしょう。
まあ、それも仕方がないですね。
私は王太子や王家の言う事に唯々諾々と従う、大人しい女だと思われていましたからね。

「おのれ、おのえ、おのれ!
失礼にもほどがある!
こともあろうに、余を不貞の輩と申すか!
もはや温情をなど必要ない。
この場で斬って捨てよ!」

やれやれ。
実際に自分で人を斬るような度胸もないくせに。
他人には偉そうに命じるのですね。
本当に卑小な男です。
ですが助かりました。
ボロを出してくれたおかげで、婚約解消ができます。

「私を殺して口をふさぐつもりですか?
でもそのような事は不可能ですよ。
全ての事実と関係者を記した手紙を、隣国五カ国に送ってあります。
私が殺されるようなことになれば、どこかの国が侵攻の口実にするでしょう。
それでも一方的に私を殺す度胸がありますか?
そうそう、教皇庁にも当然送ってあります。
王太子殿下とエレノアに、教会の異端審問に耐える胆力があるのですか?
勉強も武芸も逃げ回っていたお二人に?」

「おのれ、おのれ、おのれ!
卑怯者!
売国奴!
他国に情報を流し味方につけるなど、貴族としての誇りはないのか!?」

「同じことを王太子殿下とエレノアに申し上げさしていただきます。
先ほども申し上げましたが、婚約者の妹に手を付けるなんて、犬畜生と同じでございますよ。
それで王太子と言えるのですか?
それが王太子の誇りなのですか?
エレノア!
ファンケン公爵家の面汚し!
姉の婚約者を寝取り、王妃の座を狙うなど犬畜生にも劣ります!
父上と母上が許しても神が許されません!
ファンケン公爵家を追放にします!
とっととこの国から出ていきなさい!」

「クラリス様。
アキーレヌ様。
エレノア!
国王陛下と王妃殿下がお呼びです。
赤の間においでください」

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