「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第7話

「どきなさい!
どかないと殺すわよ!」

私は決断しました。
もう一度心の中で王太子の言葉を思いだして、どうしても許せないと思いました。
何より虫が好かないのです。
大嫌いなのです。
側に近寄られただけで虫唾が走るのです。
もう一度夜這いをかけられたら、叩きのめす程度ではすまさず、殺すでしょう。
それくらい大嫌いだと確信がもてたのです。

だから一気に王太子軍を突破する事にしました。
面倒無用で叩きのめすことにしたのです。
不可抗力で誰かを殺しても仕方ないと覚悟しました。
赤虎と蒼虎が先頭に立ってくれました。
その後を白王に乗った私とペリーヌが続きます。
最後尾を黒王が私たちを護って走っています。
いえ、違います。
犯罪者ギルドの刺客を撃退するたびに手に入れた、馬や驢馬が続いています。

私たちの前に立ちふさがらなければ、こちらから殺す気などなかったのです。
ですが、私を捕えて手柄を立てたかったのでしょう。
国王の目付に叱責されたのが悔しかったのでしょう。
さきほど私の事を罵ったバカ取り巻きが、行く手を防ごうとしました。
命知らずのバカとしか言いようがありません。

赤虎が前脚の一振りで首を刎ね飛ばしてくれました。
一面に血の雨が降りました。
私は赤虎の移動でこうなる事を察し、ペリーヌの眼をそって手でふさぎました。
父親を眼の前で殺されたペリーヌに、それを思いだすような惨劇を見せたくなかったのです。

その場が凍り付きました。
みなこのような状況になるとは思っていなかったようです。
自分たちは王太子の側近なので、逆らう人間はいないと思っていたのでしょう。
まして自分たちを傷つける者など、存在しないと思っていたのでしょう。
どんな無理難題を押し付けても、唯々諾々従う者ばかりだったのでしょう。

私はそんなプライドのない人間ではありません。
誇りのためなら命を捨てる覚悟はできているのです。
だから、ここで王太子との縁をすっぱりと断ち切ろうと思いました。
王太子の心を折り、国王にも諦めさせるつもりでした。
白王の手綱を操り、王太子の横に移動しました。

バッチーン

渾身の一撃でした!
一切の手加減をしませんでした。
王太子の顔に平手打ちを喰らわしてやりました。
その威力の強さは、王太子を落馬させるほどの破壊力でした。

「この蛆虫野郎!
今度近付いたら平手ではすまさないよ。
ケツに剣を喰らわしてやるからね。
その覚悟で追ってきな!」

私は意識して汚い言葉で罵りました。
その方が王太子との縁を断ち切れると思ったからです。
ですが……





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