「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第1話

それはまさに天啓でした。
世の中を全くよくできないくせに、神の教えだと言って寄付を強要する教会に腹が立ち、屋敷の中にある祭壇の前に立ち、思いっきり神様に文句を言っていたら、天啓にうたれたのです。

『そこまで口汚く文句を言うのなら、神力をくれてやるから自分で何とかしてみろ、この女郎。
おまけにちょっとだけ未来も見せてやるから、逃げられるなら逃げてみろ』

完全に神様の逆切れです!
こんな天啓は、教会の教えだけでなく、古い時代の神話でも聞いたことがないですが、恐らくそれでも、古い時代の神話の方が教会の教えより正しいのでしょう。
神様が教会の教え通りの性格から、こんなことは絶対しませんから。
やはり神様は一柱ではないのです。
性格も、とても人間臭いようです。

ですがその方が助かります。
あまりに行儀のいい神様だったら、文句を言ったことがを恥ずかしく感じてしまっていたでしょう。
あの神様なら文句を言った事に心を痛める必要もありません。
それに、神力と知識を与えてもらえたのも大助かりです。

これで好きでもない王太子と結婚しなくてもよくなりました。
どうせ少し先には向こうから婚約破棄してくるのです。
今こちらから婚約破棄しても胸が痛むこともありません。
むしろ清々します。

ですがいきなりできる事でもありませんし、穏便にした方がいいのも確かです。
婚約破棄通知ではなく、婚約辞退願いにしましょう。
国王陛下や王妃殿下が承認しやすいように、王太子が密かに付き合っている、ゴンサレス侯爵家の令嬢ルスィアの事を暴露してあげましょう。
ちょっとした意趣返しです。
天啓で経験した未来は悲惨でしたから。

それに家出の準備もしなければいけません。
何の準備もしないで家出するほど馬鹿じゃないです。
神力でどれくらいの事ができるのか?
見せてもらえた未来をどう活用するのか?
家から持ち出す武具・魔法具・現金を準備すること。
特に武具と魔法具は使いこなせないと意味がありません。
家出して直ぐに野垂れ死にするようでは、社交界の笑い者になってしまいます。

「お嬢様、最近はずいぶんと本気で鍛錬されますね。
王太子殿下の婚約者に決まる前、冒険者を志していたころのようですよ」

バレたのでしょうか?
今でこそ我が家の武芸指南役をしていますが、ダニエルは元々は勇者とまで称えられた歴戦の冒険者戦士です。
私の決意を悟られているのかもしれません。
ただの偶然という事もありますし、鎌をかけている可能性もあります。
平常心を保って、悟られないように、無難な返事をしなければいけません。

「王太子殿下に嫁ぐ日が近づいていますからね。
王太子殿下を尻に引けるように、噂のように浮気が激しい時には、容赦なく折檻できるように、自分を鍛え直しているのよ」

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