「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第8話

「ギュンター、売春婦や孤児が逃げてきてるって本当なの?」

「……ああ、本当だ」

ギュンターが犯罪者ギルドを乗っ取って半年、都市の状況が一変した。
ギュンターの評判が王国全土に広まり、困窮する民だけでなく、虐待されていた売春婦や孤児まではこの都市に逃げてきたのだ。

ルーベンは強く追い返すように言った。
だが、ギュンターにそんな薄情な事が言えるはずがない。
ギュンターが警備隊の組長でなければ、城門で排除されただろう。
だがギュンターが警備隊で絶大な力を持っていた事で、城門で排除されることなく、都市内に入れてしまった。

最初はそれでも余裕があった。
莫大な利益があがっていたので、それで養う事ができた。
繁盛するアンナの居酒屋に雇ってもらう事ができた。
売春を商売に望む者も、それなりの仕事ができた。
だが今はもう限界だった。
この都市の需要以上の売春婦と孤児が押しかけてきてしまったのだ。

これ以上はアンナの居酒屋に雇ってもらいえないと判断したルーベンが、都市の自警団として食事だけを与え、掃除や巡回を行わせたが、もうギュンター組の資金力でも赤字になっていた。

「ルーベン、何か手はあるの?」

「残念ですが、打つ手がありません。
死傷者が出るのを覚悟して、森の開拓をさせるしかありません」

「もう!
もっと早く相談しなさい。
私はギュンターの女房なのよ」

「え、いや、その、え~と、いつから、俺の女房なの?」

「そんなの決まっているでしょ。
ギュンターとルーベンが命懸けでベイク組に乗り込んでくれた時からよ。
それよりも直ぐに食糧と資金を手に入れるわよ。
ここに薬酒があるわ。
今この国に出回っている最高の回復薬よりも効能があるわ。
一瓶大金貨一枚で売っても大丈夫よ。
これを警備隊を使ってダンジョン都市まで売りに行きなさい」

ギュンターとルーベンは最初半信半疑だったが、試しに死病に憑りつかれた病人に与えると、瞬く間に回復した。
ダンジョン都市で腕や脚を失って、故郷のこの都市に戻って来た元冒険者に与えると、無くした腕や脚が再生した。
これは莫大な資金源になると判断したルーベンは、急ぎ交易隊を編成すべく、警備隊に戻っていった。

ギュンター組は絶体絶命の苦境から脱した。
腕や脚を再生してもらった元冒険者が紹介者兼証人となり、警備隊と自警団で編制された交易組を案内して、ダンジョン都市に向かった。
薬酒は最高回復薬としてもてはやされ、高級官吏の年収に匹敵する値段でも、瞬く間に売れた。
それが評判となり、王都でも売られるようになり、ギュンター組は王都にも勢力を広げ、数年をしてこの国を牛耳る犯罪者ギルドとなり、この国から餓死する人を一人もいなくした。





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