「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第21話追放49日目の出来事

月神テーベの指示のもと、アリスは神罰を代行した。
アリスには神罰が下せるくらいの神力が分け与えられた。
だが月神テーベはアリスを溺愛している。
一度どん底にまで落とされたアリスの心に、負担をかけるような神罰は避けた。
あれほど残虐な神罰を長く与えていた、同じ神とは思えないようなテーベの変わりようだったが、それが月神テーベの二面性だった。

まずテーベはアリスに内緒で色々行った。
老化させていたアリスの敵を元の年齢に戻したのだ。
だからといってアリスから若さを奪うはずもなく、自分の神力を使うはずもない。
後でアリスに直接神罰を与えさせる、目に見えていたアリスの敵以外の、アリスを見殺しにしていた人間から若さを奪い、その若さを与えたのだ。

なぜ一旦元の若さに戻したのか?
簡単な話だった。
弱々しく年老いた相手では、幾ら恨んでも余りある敵であっても、傷つけ殺す事にアリスが罪悪感を抱くと思ったからだ。
アリスに心の負担なく恨みを晴らしてもらうために、元の年齢に戻したのだ。
同じ理由で、あらゆる病気や障害、醜く変貌させていた容姿も元に戻した。

まだ生き残っていたアリスの敵達は、元の若さを取り戻し、健康になれたことに涙を流して喜んでいた。
生れて初めて月神テーベに心から祈った。
だがテーベには全く許しの気持ちが浮かばなかった。
むしろ幸福の絶頂に殺したうえに、人間の記憶を持ったまま虫や小動物に転生させらてやろうと考えていた。
アリスに分からない残虐な罰を与えようとしていた。

だからこそ、最初に設定していた、民に嬲り殺しにさせる計画を放棄したのだ。
最初のテーベの考えでは、散々に不幸にさせた後、今迄虐げていた人々に殺させるという計画だった。
王侯貴族達が今迄民に行っていた残虐な処刑方法を、民が王族にするという計画だったのだが、それを放棄したのだ。

そこにまた新たな策が思い浮かんだ。
一度殺した人間の魂をホムンクルスに宿らせ、アリスに復讐させる方法だった。
テーベは急いで殺した人間の残骸からホムンクルスを創り出し、元の容姿と同じ姿にして、混沌を漂っていた魂を探し出して宿らせた。
だがその魂は混沌に飲まれて狂ってしまっていた。

テーベは心から反省していた。
もっと真剣に復讐を考えていれば、人間の記憶を残したまま虫や小動物に転生させる罰を思いついていたのだ。
それを思いつかなかったのは、怠慢だったと反省していた。
アリスの事を心から思っているのなら、もっと早くに思いついていたはずだと、自分を叱りつけた。

だがこれでようやくアリスの復讐の場が整った。
アリスに敵一人一人の顔を確認させて、一撃の雷撃で焼き殺した。
これでアリスの復讐が晴らされ、新たな道に歩み出せるとテーベは安心した。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品