「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第7話追放36日目の出来事2

「不味い!
不味すぎるぞ!
全く味がついていないではないか!
こんなモノが食べられるか!
作り直せ!」

今日も王太子が無理難題を言っていた。
料理人の給仕も困り果てていた。
王太子の命令に従い、料理人は誇りを捨てて、味の濃すぎる不味い料理を作り提供していたのだ。
給仕達は、全ての賓客来客に対して、王太子の命令によって濃い料理になっていると、苦しい説明をしていた。

「見てみろこの残った料理を!
あまりに味が薄くて不味いから、誰も手を付けないではないか!
私に恥をかかせおって!
料理人を全員首にしろ!
いや、実際に首を刎ねてしまえ!」

「そうですわ、王太子殿下。
最近の料理人は腕が落ちすぎています。
我が家でも、いくら言い聞かせても、全く味のしない料理をだす料理人がいたので、辞めさせてしまいましたのよ」

「まあ、ジャスミン嬢の家でもですか?
我が家も同じですの。
私も止めさせたかったのですが、父上と母上が慈愛の精神で止められたので、辞めさせるわけにはいきませんでしたの」

グストン公爵家令嬢ネヴィアも会話に加わってきた。
だがドネル公爵家令嬢のジュリアは、明らかに体調が悪そうで、会話に加わることができずにいた。

半数以上の貴族士族が、呆れて話を聞いていた。
味が薄くて食べられないのではない。
味が濃すぎて不味いのだ。
とても食べられないほど味が濃いのだ。
皆が内心で王太子の味覚音痴を嘲笑っていた。

だがそれなりの人数の貴族士族が、王太子の言葉に同意していた。
そんな貴族士族には共通点があった。
一様に体調が悪そうなのだ。
王太子におもねるために、体調不良をおして参加しているのが一目瞭然だった。

そんな中に、深刻な表情をする者がいた。
月神殿の大神官ローワンだった。
大切な癒しの聖女を、自分がいない場所で足蹴にされたローワンだったが、さすがにこの現状を見過ごせるほど悪党ではなかった。
慈愛と癒しの神、月神に仕える大神官として、なにが起こっているか確認するために、王太子に話しかけようとした。

だが、話しかけることができなかった。
雷に打たれたような激痛が全身を駆け抜け、その場で卒倒してしまった。
意識が薄れるローワンに月神の言葉が響いた。

「余の名を穢した背教徒ローワン。
今は命までは取らぬ。
お前など命を奪う価値もない。
だがこれ以後月神の信徒を名乗る事は許さん
生き恥を晒し、野垂れ死にするがいい」

晩餐会は大騒ぎになった。
王家とは距離ができたとはいえ、この国の守護神月神に仕える者達の長が、何の前触れもなく倒れたのだ。
だが王太子には目障りなだけだった。
大嫌いなアリスを思い出されるモノは全て排除したかった。

「ええい、恥さらしが!
大切な夜会で粗相をしおって!
神殿に送り返せ!」

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