「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第6話追放36日目の出来事1

「美味しいです、テーベ様。
毎日美味しいくなります。
日に日に味が分かるようになってきました。
この桃がとても美味しいです。
でも、本当に林檎が食べられるようになるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ、アリス。
少しずつ歯が再生されています。
柔らかい桃だけでなく、林檎や梨も食べられるようになりますよ。
時間をかければ、肉だって食べられるようになりますよ」

「ありがとうございます、テーベ様。
全てはテーベ様のお陰です。
少しずつ若さを取り戻しているようです」

「私の力などわずかなモノですよ。
全てはアリスが積み重ねてきた献身と努力の結果です」

私の身体は、徐々にだが若さを取り戻していた。
その中の一つが、味覚だった。
王太子を治療するために若さを失っていく中で、常に鼻水が出て、食べ物の香りが分からなくなり、何を食べても味が分からなくなっていた。
ここ二年は何を食べても砂を食べているようだった。
いや、液体しか喉を通らず、その液体もむせる状態になっていた。

それが、徐々に口移しでなくても液体を飲めるようになり、果汁やスープを自力で飲めるようになったが、それでも当初は味が分からなかった。
それが、徐々に甘味や塩味を感じられるようになり、香りも分かるようになった。
甘味や塩味だけでなく、酸味や苦味、旨味まで取り戻していった。

鼻詰まりが完全になくなり、鮮やかな香りが分かるようになった時、気がつかないうちに涙が流れていた。
熟した柿の濃厚な甘みと香り。
蜂蜜の美味しさと違いが分かるようになった。
集めた場所によって香りが違う事が分かった時、甘味にも違いがあると分かった時、踊り上がるようなよろこびが湧き上がった。

テーベ様が手間を惜しまず、私のために丁寧に魚肉を叩き、つみれというものを作ってくださって、スープの具材にして下さって、二年ぶりに魚を食べることができましたが、とても美味しかったです。
徐々に健康になって、魚肉だったものが鶏肉になり、その美味しさに感動して身体中が震えました。
昔は苦手で嫌いだったレバーペーストが、あんなにも美味しい料理だったのだと、初めて知りました。

そして昨日の晩餐に、牛タルタルステーキを作ってくださいました。
細かく叩き切った牛肉に、同じく細かく刻んだ野菜と香草を混ぜ合わせて、野鳥の卵を混ぜて焼いた料理でした。
側で作られるのを見ていて、私のためにこれほどの労力と手間をかけていただいたのが分かって、自然と涙が流れました。

徐々に若さを取り戻しているとはいえ、涙もろくなっています。
一度老いるとそういうモノなのでしょうか?
一口食べて、混ぜられている野菜と香草の一つ一つの香りと味が分かって、またうれし涙を流してしまいました。
同時に不安も感じてしまいました。
完全に若さを取り戻したら、テーベ様がいなくなってしまわれるのではないかという不安です。




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