「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第18話

「なんの心配もいらないよ、オリビア。
僕も新しい領地についていってあげるからね。
家臣領民を食べさしていくのに、なんの心配もいらないよ」

「ありがとうございます、ベヒモス様。
でも、ベヒモス様が去られた後のこの地は大丈夫なのですか?
ここには我が家の家臣領民がおります。
私には彼らに対する責任もあるのです」

「大丈夫、大丈夫。
僕の力は少々離れていても、愛する土地には問題なく及ぶからね。
とは言っても心配だよね。
多くの人間は、姿が見えないモノを信じられないからね。
この地にいる大地の下位精霊ノームに、オリビアが新たな領地に移った後に、姿を現すように命令しておくよ。
そうすればオリビアも安心して新たな領地に行けるだろ」

「ありがとうございます、ベヒモス様。
心から感謝いたします」

ベヒモス様が私の不安を感じられたのか、わざわざ姿を現してくださいました。
しかも私の領地について来てくださるばかりか、この辺境領のことまで考えてくださいました。
言葉だけでは私の感謝の想いを伝えられませんが、言葉で伝えるしかありません。

「大丈夫だよ、オリビア。
我ら精霊は人の心が手に取るようにわかるからね」

安心する反面、恥ずかしさもあります。
口にできないような想いまで、精霊様には伝わっているのですね。
私のジョージに対する微妙で複雑な想いも知られてしまっています。
まあそれは貴族の結婚なら仕方がない事です。
特に私は、今まで一度も男性を心から愛したことがないのですから。

ですが今考えるべきことはこんな私的な事ではありません。
領主として領地の事を考えなければなりません。
主君として、家臣のことも考えなければなりません。
王家と父上が話し合われて、結局私が賠償金として受け取る領地は、予定通り王太子の台所領と決定しました。

王家としても、これ以上直轄領を減らすわけにはいかなかったのです。
それでなくても、王太子の借金返済で国庫が圧迫されているのです。
そもそも王太子が与えられていた台所領は、十万石の評価がされていました。
十万石といえば、ギリギリの生活なら十万人の領民が食べて行ける生産力です。
農業生産力だけでなく、工業生産力や水産生産力、鉱山収入や港湾停泊料まで合わせた収入ですから、実際に十万人の領民が住んでいたわけではありません。

ですが、王太子はその領民全てを奴隷にして売り払ってしまっていたのです。
十万石の領地を担保に、複数の貴族や商人から借金していたのです。
その総額は小金貨で百六十三万枚、百六十三億小銅貨だと言うのですから、国王陛下と大臣たちが頭を抱えるのも当然です。
ですがそれはしょせん私にとっては他人事です。
問題はその領地を私が復興させなければいけない事でした。



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