「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第8話

「御嬢様が決断なされたのでしたら、私に否やはありません。
私もイーライ卿に命を預けます」

エスメが決断し、断言してくれました。
感謝の気持ちで胸がいっぱいになります。
私のために命を懸けてくれたばかりか、私を信じて見も知らない騎士に命を預けてくれるというのです。
込み上げる思いに嗚咽が漏れそうになります。
鼻の奥がツンとして、涙がとめどもなく流れます。

「気になさることはありません、御嬢様。
私の命は、御嬢様の乳母選ばれた時から御嬢様のモノです」

込み上げるモノが強すぎて、言葉にできません。
家族を、テディやアバや他の子供達を残すことになっても、私のために死んでくれるというのです。

「ギャン!」

「アバ!
どうしたんだ、アバ!
しっかりしろ!」

断末魔?!
嘘でしょ?!
アバが攻撃されたのですか?
アバは御者台にいるのに、前はイーライ卿が敵を叩き伏せてくれていたはずです。
馬車が止まります。
ハリーがアバの代わりに御者を務めてくれたのでしょう。

「出てはいけません、御嬢様!」

「何を言っているのですか、エスメ。
私のために命を懸けてくれた者を、気遣わないでどうするのですか!」

エスメが馬車から出ようとする私を止めます。
自分の娘のために私が危険を冒すのが許せないのでしょう。
ですがここで家臣を気遣わない者に、忠誠を尽くしてもらう資格はありません!

「ハリー!
アバはどんな具合ですか?!」

ハリーが私の視線を外します。
静かに首を横に振ります。
エスメの顔色が一瞬で蒼白になります。
信じられません。
信じたくありません。
さっきまで元気に私を護ってくれていたアバが、こんな簡単に死ぬなんて!

「呪いだ!
強烈な呪いが遠距離から放たれたのだ。
我が家に伝わる家宝の護符が反応していた」

先を進んでいたイーライ卿が教えてくれます。
私のせいです!
私を護るために身代わりになってくれたのです。
乳姉妹の私とアバには霊的なつながりがあります。
それを利用して、私に向けられた呪いや悪意をアバが代わって受けてくれる、そういう魔道具を装備しているのです。

「蘇生術を行います。
直ぐに準備してください」

「だめです、御嬢様。
ここはまだ危険でございます。
いつまた呪いが放たれるか分かりません。
ここは少しでも先に進まなければいけません!」

エスメが自分の娘アバの事よりも、私の事を優先しようとしてくれています。
ファーモイ王国の常識ではその通りです。
ですがそれに甘える気にはなりません。

「黙りなさい!
これは主命です!
この場でアバを蘇生します!
手伝いなさい!」


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