「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第1話

「聖女様、頼む!
ロイドを助けてやってくれ!」

言葉遣いは乱暴ですが、なかなか美しい女が重傷の男を運び込んできました。
美しいとはいっても、狼獣人基準の話ですが。
狼獣人の体力がなければ、板金鎧を装備した男性を背負って、魔獣が追撃するダンジョンから生きて戻るのは難しいです。

それに、このパーティーはとても恵まれています。
初級とはいえ、二人も魔法使いがいます。
女性の魔法使いが初級の治癒術師なので、噛み千切られた手足の傷を塞ぐことができたので、ここまで生きて運べたのでしょう。
追撃してくる魔獣を、男性の魔法使い、初級の攻撃術師が抑え込んだのでしょう。

「これを持ち帰って来た。
完全に手足を失ったわけじゃない。
手持ちの金で元通りにしてやってくれ。
これが俺達の有り金全部だ」

海千山千の冒険者です。
命を糧に魔獣を狩る、死と隣り合わせのヤクザな商売です。
命懸けで稼いだ金を、簡単に使うほどの愚か者なら、彼らほどのレベルになる前に全滅しています。
たぶんパーティー共用のお金の全てという意味です。
個人の金は別に持っているはずです。

「大丈夫よ。
あくどく儲けるつもりはないわ。
この状態なら、少し体力を回復させて、右腕と右脚の欠損部分を再生させて、持ち帰った右腕と右脚を繋げばいいから。
よく腕と脚を持ち帰ったわね。
いい判断よ」

私はこれでも高位治癒術師だから、失った腕や脚を完全に再生する事が可能ですが、それには莫大な魔力が必要になります。
普通に神殿や開業治癒術師に治療を依頼したら、腕と脚の二カ所で小金貨二枚は請求されます。
腕や脚を持ち帰っていても、そんな事は考慮しないものです。
しかも失敗しても前金は返さないのが普通です。
それくらい魔法による治癒は高価なものなのです。

「そうか、それは助かる。
この通り礼を言う。
どうか元通りにしてやってくれ」

右腕と右脚を持ち帰った槍使いの戦士が、深々と頭を下げてくれます。
この真摯な態度が、何物にも勝る私への報酬です。
心からのお礼がもらえるのなら、金銭の報酬など不要なのですが、礼金なしに治癒術を使うと、商売の邪魔だと神殿や開業治癒術師に刺客を送られてしまいます。

だから彼らを怒らさない程度の治療費はもらわないといけませんし、あまり高度な治癒術も使えないのです。
私の正体を知られるわけにはいかないのです。
そのために、できるだけ元の腕や脚を回収してきてもらい、欠損部だけを再生する治癒術師だと思わせなければいけません。
その程度の治癒術師だから治療費も比較的安いのだと思わせなければいけません。
持って帰った腕が使い物にならない状態なのは、ここにいない神殿関係者や開業治癒術師には分からないのですから。

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