「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第4話

「義兄上様、盗賊どもは左に集まっております。
右の盗賊は私が牽制します。
左の十二人をお願いします」

「任せろ」

ラエヌア王国の腐敗と混乱は、私が思っていた以上に酷かったです。
今迄は、王都とリトリア公爵領、それに二つを繋ぐ街道沿いしか、私も義兄上も知らなかったのです。
ですが今は、追放刑から逃げ出した場所から、リトリア公爵領に戻らなければいけませんから、全く使った事のない街道や、獣道を使って移動しています。

王都とリトリア公爵領の間は、鍛え抜かれたリトリア公爵軍が行き来するので、盗賊や山賊が蟠踞することがなかったのです。
貴族士族も、リトリア公爵に失政を見られるのを恐れ、貴族士族として最低限の良識は守って領地経営をしていました。
ですが、義父上リトリア公爵の目の届かない場所に領地を持つ貴族士族は、私や義兄上では考えられない悪政を行っていたのです。

まあ、当然の事ですが、悪政が行われれば、民は土地を捨てて逃げ出します。
逃げた先で真っ当に働いて生きていければいいですが、普通は無理です。
当然悪事を働いてでも生き延びようとします。
一旦悪事に手を染めれば、どんどん悪事が酷くなります。
生きるために最低限の悪事を働くのではなく、欲望を満たすために、必要以上の悪事を重ね、逃げる前に自分が受けていた以上の悪事を働くようになります。

可哀想な面が全くないわけではありませんが、だからといって、悪事に染まらずに踏んばっている民を襲い、奪い犯し殺す事は絶対に許しません。
断じて殺します。
私としても丁度いい生贄です。

「月神アルテミス様、セレーネー様、ヘカテー様。
今から私と義兄の二人で、悪事を働いた者を生贄に捧げます。
お受け取り下さい」

(喜んで受け取らせてもらいますよ、我が聖女エルア。
グレンが捧げた生贄の分も、お前に加護を与えればいいのか?)

(直接お言葉を賜り、これほどうれしいことはございません。
義兄グレンが捧げた生贄は、密かに加護を与えるという事は可能でしょうか?)

(ふっふっふっふ。
密かにですか?
何か楽しそうですね。
分かりました、エルア。
グレンが危地に陥るまでは、潜在能力として蓄えておきましょう)

(ありがたき幸せでございます)

私が月神様達と交信している時間は、ほんの一瞬です。
瞬きする間に全てが終わっています。
ですが時間は大切です。
瞬きする間に形勢が逆転してしまう事もあるのです。
ですから、直ぐに現況を確認して、右から接近する盗賊に矢を射りました。

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