「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第3話

「ありがとう、エルア。
元の身体に戻る事ができた。
これで自分の手で恨みを晴らすことができるよ」

困りました。
私が義兄上の恨みを晴らしたかったのですが、義兄上自身の手で恨みを晴らしたいと言われるのなら、邪魔する事などできません。
だったらどうすべきか?
義兄上の手で恨みを晴らしていただきたいとは思いますが、だからといって危険な目に会ってもいいとは思えません。

「義兄上様。
恨みを晴らすのは当然の事だとは思いますが、返り討ちになっては恥です。
身体を元の状態に戻さなければいけないのではありませんか?」

私は義兄上の騎士武人としての矜持をくすぐりました。
恨む相手に返り討ちになるなど、義兄上の誇りが許さないのは分かっています。
義兄上も、毒薬と拷問でボロボロになってしまった身体が、元通り使えるか不安なのでしょう。

「分かった。
確かに返り討ちになるほど恥ずかしい事はない。
今の状態でも、ゼノン王やエストア公爵に後れを取る事はないが、二人を護る騎士や徒士全てを斃すのは厳しいかもしれない。
身体を鍛え直す時間は必要だな」

よかった、本当によかった!
義兄上に憤死などさせられません!

「では一度領地に戻られませんか?
義父上が謹慎もう申し出て、領地に帰られました。
表向きは謹慎帰領ですが、本心は籠城のためです。
領地で王国軍を迎え討ってもいいですし、領地に王国軍が攻め込んでいる間に王城に乗り込んで、恨み骨髄のゼノン王とエストア公爵を、義兄上様の手で討ち取ってもいいのではありませんか?」

義兄上が真剣に考えておられます。
義兄上の心には、他に策が浮かんでいるのでしょうか?
できれば安全な領内で待ち構える策を選んで欲しいのですが。

「分かった。
命の恩人エルアが、そこまで心配してくれるのだ。
その心を踏み躙るわけにはいかないな。
一度領地に戻ろう」

義兄上が私の想いにこたえてくれました。
これほどうれしい事はありません。
領地までの旅程で、男女の間違いが起こって欲しいのが本心ですが、アルテミス神の聖女としては、そのような事を自分から誘う事はできません。
本当に哀しくて残念な事です。

アルテミス神の三面性、セレーネー神やヘカテー神の顔が前面に現れてくれれば、私の望みがかなうかもしれないのですが……

(そんなに欲深くなってはいけませんよ。
今はもっと生贄を捧げることです。
そうすれば、アルテミスもセレーネーも私も、力を貸し与えましょう)

(これは、これは、ヘカテー神様。
お言葉を賜り、これほどうれしい事はありません。
お言葉通り、できる限り生贄人身御供を捧げさせていただきます)



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