「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第6話主人公オリビア視点

ジルは普通の犬ではないのかもしれません。
前から少しは疑っていたのですが、今日はっきりしました。
だって、魔獣を狩れる犬など普通いません。
どこの世界に、自分の十数倍の大きさの魔獣を斃せる犬がいるというのです。
それに今、使い魔を使役しているのです。
絶対に普通の犬ではありません。

「ジル、あの子達は何をしてくれているの?」

「ワン!」

ジルは強情なのか、それとも少し天然なのか、この期に及んで犬のフリをします。
しかたありませんね。
どうしてもジルが犬のままでいたいのなら、犬として相手をしてあげましょう。
それに私もジルの毛並みを撫でてあげるのが大好きですから、下手に犬ではないと分かってしまうと、気安く撫でてあげられなくなります。

それにしても、荒地を耕してくれている真赤な使い魔は、姿形だけは人間そっくりですが、明らかに人間とは違う雰囲気があります。
まあ、見た目が真赤だから間違えようがないのですが。
でも笑ってしまいますね。
使い魔ならもっと他に使いようがあるでしょうに、荒地の開拓に使うなんて。

ジルは何かが吹っ切れたのでしょう。
私の目の前で、次々と使い魔を増やしていきます。
井戸もそこら中に掘り返しています。
その井戸の水を荒地の土を使って、日干し煉瓦まで作らせています。
家でも建てる気なのでしょうか?

私と本格的のここに住む気になってくれたということでしょうか?
今迄は仮住まいの気だったのでしょうか?
それとも遊び、ピクニック気分だったのでしょうか?
私には衝撃的な出来事だったのですが、ジルとは感覚が違うようですね。

「ワン!」

「どうしたの、ジル?」

「ワン、ワン、ワン!」

私がジルの見る方に眼をやると、使い魔に連れられた人間が歩いてきました。
まだ遠くてはっきりと見分けられませんが、チャーリーではないようです。
シルエットから判断して、スカートをはいているように見えます。
恐らく女性なのでしょうが、魔の荒地に女性がやってくるなんて、普通では考えられない事ですから、犬に見せかけているジルの仕業でしょう。

ここまでやって、まだ私がジルを犬だと信じると思っているのなら、ジルは完全に天然だと言えます。
そんな天然のジルと愉しく一緒に暮らそうと思うと、私も天然になるしかないのでしょうね。
それにしても、ジルは何のためにあの女性をここに連れてきたのでしょうか?
今更私の世話をさせるために、女性と連れてきたとは思えないのですが。

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