「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第4話主人公オリビア視点

「ああ、ええ、その。
今日は特別に安くしていただきましょう。
買取金額も特別に高くさせていただきます。
ですから、ね、ジル様のお怒りをなだめていただけませんか。
恐ろしくて仕方がありません」

どうやらジルは、前回の不当な取引を根に持っているようです。
ジルは賢いですから、それくらいの事は理解できます。
私も前回の取引は酷過ぎると思いました。
思いましたが、私の立場では文句も言えません。
私は荒地を出る事すらできない身です。

チャーリーがこの危険な魔の荒地まで来てくれて、初めて取引できるのです。
命懸けの行商だと考えれば、普通の価格での売買はありえません。
それでも高い気がするほどの値段ではありましたが、嫌だといえば、そもそも取引が成立しません。
命の危険に見合わないと思えば、次から荒地に来てくれなくなります。

そう思って前回は何も言わずに取引しました。
ですが、ジルが怒るようではあまりに酷過ぎたのでしょう。
今回はジルに任せます。
それでチャーリーがここに来なくなっても、それはそれで仕方がありません。
ジルがいなければとうに死んでいた私です。
ジルが嫌がる事をするわけにはいきません。

「これが今持っている塩の全てでございます。
こちらが香辛料に全てでございます」

「ウゥウウウウウウ!」

「あ、忘れておりました。
背負子の底にもう1袋塩がございました。
あ、はあははは。
そうだ!
珍しいモノがあるのですよ。
遥か東方の国で作られている味噌というものなのですが、東方からの移民がこの国でも創るのに成功いたしまして、試しに仕入れてみたのです。
少々お高くなりますが、買ってみられますか?」

あら、あら、あら。
チャーリーがとても慌てています。
この期に及んで嘘をついたので、ジルが本気で怒っています。
私が初めて見る、横で見ている私が怖くなるくらいの殺気です。
直接殺気を受けているチャーリーが、心底恐怖するのは当然ですね。
でも、味噌と聞いて、ジルの殺気が少しおさまりました。
ジルが好きな香りなのかもしれません。
少々高くても買ってあげた方がいいですね。

「いいですよ。
ジルがとても気に入ったようですから、少々高くても買わせてもらいます。
他にも何かありませんか?
ジルが気に入るのなら、少々高くなっても構いません。」

「でしたらこれはいかがでしょうか。
これも同じ東方の移民が創り出したモノなのですが、醤油というものです。
ジル様が気に入ってくれるようでしたら、少々高くつきますが、次からも持ってこさせていただきますが、いかがでしょうか?」

さすが商人ですね。
ジルの機嫌が直ったと思ったら直ぐに攻め込んできました。
商魂たくましいとはよく言ったものです。


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