「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第9話

「やれ、やれ、早くしろ!
早く殺してしまえ!
うぐっ、ううううう、うぎゃああああ!」

ヒロクス子爵マテオが床を這いずり回っています。
結構強い毒を用意したのでしょう。
お陰で自分が苦しむ時間が短くてすみますね。
問題は刺客ですが、四人でも八人でもディラン様の敵ではありません。
少しでも危険を感じたら、魔法で援護しますが、そんな必要など全くありません。
鎧袖一触で八人の騎士が絶命しています。

「ああああ、若様!
聖騎士様!
聖女様!
お慈悲でございます。
どうかお慈悲を願います。
若様を許してください!」

「駄目です!
聖騎士や聖女の慈悲は、善男善女に与えられるものです。
穢れた腐れ外道に与えられるものではありません!
この腐れ外道によって、不当に貶められ苦しめられた人が数多くいる事、お前は知っていますね!
多くの者が罪もないのに許しを請い、許されずに苦しめられ、時に殺されたのを、お前は見ていましたね!
それを見逃してきましたね!
恥を知りなさい!
お前達に慈悲など必要ありません!
お前達に慈悲を与えるのは、苦しめられ殺された人々、その家族友人を更に踏みにじり苦しめることになります。
聖騎士や聖女は、そのような恥知らずではありません!」

私はディラン様が慈悲を与えてしまわないうちに、厳しく言い放ちました。
ディラン様は優し過ぎるのです。
思いやりが大きく深すぎます。
それはディラン様の美点でもあり欠点でもあります。
この領地では、明らかに欠点になるでしょう。

この領地に入ってから見聞きした範囲でも、多くの領民、いえ、全ての領民から領主は忌み嫌われ憎まれています。
助命したら、その憎しみはディラン様に向けられてしまいます。
ここは確実に殺さなければいけません。
その後で、少し仕掛けを施しましょう。

「心配してくれるのはうれしいが、私もそこまで甘くはないよ。
私だってこの地の領民の気持ちは分かっていたよ。
この者を生かしておくことで、領民の生き地獄が続く事くらい、分かっているよ」

「差し出がましい事を申しました。
お許しください、義兄上」

「いや、謝る事はないよ。
グレイスが私の事を心配してくれて、憎まれ役を買って出てくれたのはうれしい。
とてもうれしいんだよ。
でも、もう少し信用してくれたら、もっとうれしいな」

ディラン様はそう申されますが、幼い頃から恋焦がれて見てきたディラン様は、甘いくらいお優しいのです。
幾度も痛い目に会わされて、多少は厳しい面も持たれましたが、その仮面も少しのお涙頂戴ではがれてしまいます。
老執事の演技によっては、情にほだされる危険があります。
ですが、今非情になると口になされました。
今が好機です。
ディラン様は一度口になされたことを破られることはありません。
非情の行動をとってもらいましょう。

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