「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第4話

「ディラン義兄上。
リンゴが剥けました。
あ~ん、してください」

「おい、おい、おい。
そんな事までしてくれなくても、私一人で食べられるよ。
私はもう子供ではないのだよ。
私はグレイスよりも年上なのだよ」

「嫌なのですね。
私が切ったリンゴを食べるのが嫌なのですね。
義兄上は私の切ったモノなど食べられないといわれるのですね。
私はとても哀しいです」

「いや、そうではない。
そうではなくて、一人で食べられるといいたいのだよ。
うん、とても美味しそうだ。
私のために切ってくれてありがとう。
とてもうれしいよ。
さっそく食べさせてもらおう」

「まあ!
そういっていただけると、とてもうれしいです。
はい、義兄上。
あ~んしてください」

「いや、だから。
私はもう大人だから、一人で食べられるから」

「まあ!
やはり義兄上は私の事が嫌いなのですね。
私の事が嫌いだから、私から食べるのを嫌がられるのですね。
私は哀しいです。
私は義兄上に嫌われていたのですね」

「いや、そうじゃなくて、そうじゃなくてだな。
ああ、食べるよ。
いや、食べたいな。
うん、食べたい。
私は食べたいぞ。
私はグレイスに食べさせて欲しいぞ」

「まあ!
うれしいですわ、義兄上。
はい、あ~んしてください」

「……あ~ん」

私は嘘泣きでディラン義兄上を脅かしました。
ディラン義兄上を脅かして、私の手から食べてもらいました。
人生最良の至福の時です。
この時が永遠に続けばいいのですが、それは不可能です。
何かあるか分かりませんから、できるだけ早く領地に戻る必要があります。

だからこそ、この瞬間にやれることはすべてやるのです。
護衛はいますが、彼らは節度を守ってくれます。
護衛上必要なとき以外は、絶対に近付きすぎたりはしません。
彼らがそれなりの距離にいることを気にしなければ、義兄上と二人きりです。
いえ、心の中だけはディラン様と呼ばせていただきます。

徐々に領地が近づいてきます。
もうこの至福の時が終わってしまうと思うと、私が襲撃を偽装して足止めしてしまおうかと、悪い考えが浮かんできてしまいます。
絶対にやってはいけない事なのですが、思ってしまうのです。
領地に入ってしまったら、いえ、援軍が来てしまったら、十分な護衛の人数が確保され、ディラン様と同じ部屋で眠る事ができなくなります。

そこで私は一計を案じました。
少々強引な方法ですが、この方法なら、ディラン様の方から進んでこの旅を続けようといってくださるでしょう。
ディラン様に嘘をつくのは胸が痛みますが、それ以上にディラン様と一緒にいたい想いが強いのです。

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