「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第1話

「シーモア公爵家令息ディラン卿。
卿はマナリズ男爵家令嬢スカーレットに不埒な行為をしようとした。
それは貴族として絶対に許せない不正義だ。
よって王都から追放する」

「私はそのような下劣な行為はしていない!
貴族の誇りにかけて無実を訴える」

義兄ディラン様が巧みな弁舌で滔々と無実を訴えられます。
聞き惚れるような美声が、実戦で鍛えた声量で謁見場に広まります。
ですが誰も聞いていません。
それどころか、ディラン様を憎々しげに睨む者さえいます。
ディラン様が正義を貫かれてきたことで、腐敗不正義の蔓延る社交界を敵に回してしまったのです。

「シーモア公爵家令嬢グレイス
貴女には連座を適用し、私の正室婚約者から妾候補に格下げする。
完全に縁を切らない温情に感謝しろ」

ボケ!
色情狂の腐れ外道が!
誰がお前なんかの妾になるモノか。
スカーレットに誑かされてディラン様を陥れるようなモノに、話しかけられるのも身の毛がよだつわ!

「恐れながら申し上げます。
私は今でも義兄ディランは無実だと信じております。
極悪なスカーレットが、王太子殿下の婚約者の座が欲しくて、義兄に汚職や不正義を暴かれた悪徳貴族と結託して、義兄を陥れたのだと思っています。
このような決定を下した王太子殿下の妾になるなど、真っ平ごめんです。
こちらから婚約は破棄させていただきます!
義兄様、領地に戻りましょう」

私は地獄のような孤児院で生きていた時に、この身に沁みついた、平民の品の悪い悪態を叩きつけた。
唖然とする王太子や貴族達を尻目に、王都屋敷を目指した。
もうこんな王都に用はない。
懐かしい領地に戻るのです。
心密かにお慕い続けたディラン様と共に!

私は元々捨て子だった。
孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができた。
でも孤児院の責任者は、領主の補助金を着服するような極悪人だった。
人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせられる事はなかった。
だがギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。
力ある子供が、力のない子供の食糧を奪う、地獄のような場所だった。

だがそこに、正義感に溢れるディラン様が視察にやってきてくださいました。
私達は救われた。
その時から、私はディラン様に恋焦がれていた。
だが私は親も分からない捨て子だ。
醜く臭くガリガリのガキだ。
戯れに一夜の遊び女にも選んでもらいえないゴミのような存在だ。

でも、幸か不幸か、私には並外れた魔力があった。
しかもその魔力は、魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。
それを見つけてくださったのも、ディラン様だった。
私をひと目見て、
「魔力があるかもしれないから調べよう」
と言ってくださったのだ。

私は幸運にも、シーモア公爵家に養女に迎えられた。
義妹としてディラン様と一緒に暮らせるようになった。
だが不幸な事に、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。
だから私は、義妹としてディラン様の役に立つと誓った。

密かに恋するディラン様のために、厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。
ディラン様の役に立つと言われ、泣く泣く王太子との婚約を受けた。
だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれたディラン様の追放だった。
もうこんな国などどうなっても構わない。
王都が滅ぼうと知った事ではない。

弱肉強食はこの世界の掟だ。
その事は孤児院で嫌というほど味わった。
ディラン様を追放するような王家は、滅べばいいのだ。
この大事な裁判よりも愛妾との痴情を優先させるような王は、一番最初にに魔獣に喰い殺されればいいのだ。

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