「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第4話

「逃げます。
準備はいいですか?」

「ああ、大丈夫だ。
体力と筋力は回復した。
身嗜みも整えた。
いつでも逃げだせる」

まあ、完全とは言い難いですが、時間をかけ過ぎるのも危険です。
もう最初に接触してから二ケ月も経つのです。
よくここまで露見しなかったものです。
結界の魔法によほど自信があったのでしょう。
でもそんなもの、私には通用しません。

私には聖なる力があるのです。
私を捨てた実家の血のなせる力で、幼い頃はこの力があることに苛立ちもありましたが、今では使える力だと割り切っています。
この力に加えて、養母上から教わった結界崩しの魔法陣を使い、まんまとイェルク様を塔の外に連れ出し、身体強化の魔法をかけて塔を伝い下りました。
二ケ月程度訓練したからといって、塔を素手だけで下りるなんて不可能です。
各種補助魔法と身体強化魔法を重ね掛けして、何とかやれることです。

「カチュア嬢。
助けてくれてありがとう。
勝手な願いだが、私をこの国の中で匿ってくれないだろうか?
カチュア嬢がアロン大公家の依頼で私を助けてくれたのは理解している。
私がアロン大公家に行かなければ、依頼を失敗したことになって、莫大な賠償金を請求され、盗賊としての評判が落ちる事も理解している。
だが頼む!
私がこの国を離れたら、この国が滅んでしまうのだ。
どうかこの国で匿ってくれ」

「……地下室になりますよ。
地下室を広げるまでは、塔よりもひどい場所になりますよ」

「構わない。
この国の民を救うためなら、それで構わない」

「一旦はアロン大公家に行ってもらいます。
私が礼金を受け取ったら、直ぐに一緒に逃げてもらいます。
それでいいのなら、この国にあるアジトに匿ってあげます」

「どれくらいかかるのだ?
一週間以上離れるのは危険だ。
一週間の間にやれるのか?
アロン大公家から助け出せるのか?」

「イェルク様こそいいのですか?
アロン大公家は恩人ですよ。
ユリア大公息女は、救出を依頼してくれた婚約者ですよ。
裏切れば評判が地に落ちますよ。
それに、アロン大公家にいれば、国を取り返してくれるかもしれませんよ」

「民が魔に喰い殺されて一人もいない国など、取り返して何になる。
王になれなくても、私は日嗣の王子として責任を果たす。
民を護るのが、私が最も大切にすべきことだ」

「分かりました。
だったら約束します。
一週間以内にアロン大公家から救い出して見せましょう」

「おお!
ありがとう!
ありがとう、ジオラ嬢」

これはいい機会です。
私を捨てたアロン大公家に復讐する絶好の機会です。
双子の畜生腹だといって、私を捨てたアロン大公家など大恥をかけばいいのです。
ですが細心の注意を払わないといけません。
養父上と養母上に迷惑をかけてはいけません。
綿密な調査と完全な事前準備が必要です。

「イェルク様。
調査と準備が整うまでは、塔より酷い地下室で暮らしてもらいますよ」


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