「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第2話

「その通りです。
私はユリア姫から頼まれて助けに来ました。
だから信じてついてきて欲しいのです」

「……すまない。
まだ信じきれない。
それに、ここには魔力を封じる結界が張り巡らされている。
それに併せて、私を閉じ込めるための結界も張り巡らされている。
しかも私は、この塔に一年も閉じ込められ、食事の量もギリギリに抑えられ、餓えと運動不足で体力が落ちている。
とてもではないが、塔を伝って降りる事はできない」

「ですが、少しは信じてくださったのですよね?」

「ああ、信じたいと思ってはいる」

「だったら近づいていいですか?
顔を会わせて話した方が、互いの本心が伝わると思うのです」

「……分かった。
だが一メートル以上は近づかないでくれ」

「分かりました」

やっと塔にしがみついている状態から中に入れました。
塔にしがみついているというのは、結構しんどいのです。
高い塔ですから、強い風に体温と体力を奪われますし、指も痛みます。
塔に入って休憩しないと、降りる時に危険なのです。

臭い!
臭すぎます!
一年もこの塔に閉じ込められているのです。
入浴どころか、身体を拭くこともできなかったのでしょう。
皮膚病になっているかもしれません。

ああ、糞尿の処理もあるのですね。
食事の時に一緒に回収するのなら、奇麗に洗ったオマルを使えるのでしょうが、この様子なら、桶に排泄してそれを窓から捨てているようです。
一年使い続けたと思われる糞尿用の桶からも、強烈な臭気が感じられます。
可哀想だとは思いますが、この状態のイェルク様を抱いて塔を降りるのは、絶対に嫌ですね。

「おい!
顔を会わせてと言いながら、覆面をしたままではないか!
さっさと覆面を取れ!」

「それはできません。
私は陰に生きるモノです。
顔を見せたら直ぐに殺されてしまいます。
だから眼を見てください。
眼を見れば本性が分かります」

「く!
好き勝手言いやがって。
まあ、いい。
それで、何を話し合うのだ?」

「逃げる準備です。
私は結界を破る準備をしてきます。
イェルク様は、運動をして体力の回復を図ってください。
それと髪を切り髭を剃ってください。
身体を清めて逃げる準備をしてください」

「無理を言うな!
さっきも言っただろうが!
このガリガリの体を見よ!
最低限の食事しか与えられないのだ。
水も最低限しか与えられないのだ。
身を清める事など不可能だ!」

そう言われたので、私は魔法袋から必要だと思われるモノを全て取り出しました。
魔法袋から出しても長期常温で保存できる酒類、ナッツ、チーズ、燻製肉、干肉、堅パン、糒、果物、白パン、水をだしました。
そして色々と打ち合わせて、一旦塔を後にして拠点に戻りました。

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