「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第11話

「お腹はすいていない?」

「うん、まだだいじょうぶ」

「じゃあもう少し待っていてね。
薪を集めに行きましょう」

「はい、ママ」

ラムダフォード王国が滅んで一ケ月、オリビアと孤児のネイは、二人仲良く母子のように穏やかに暮らしていた。
いや、オリビアの中では、ネイはもう自分の子供だった。
ネイもオリビアの事を母親だと思っていた。

二人が暮らしているのは、ラムダフォード王国と隣国の間に広がっていた、広大な未開地だった。
獣の世界である未開地は、本来なら人間を寄せ付けない場所だ。
だが二人は穏やかに暮らすことができている。
それは狼と天馬のお陰だった。

いや狼と天馬に加え、一角馬まで二人を護るのだ。
競うように兎や狐、鹿や猪を狩って、二人の食糧を集めるのだが、その度に食べられない数や量を殺してはいけませんよと諭されている。
まことに羨ましく妬ましいと、遠くから眺めるだけのキャスバルたち忍者は思う。

キャスバルたち忍者は、神の裁きから生き残っていた。
足弱の幼児や老人は鹵獲した馬に乗せ、脚に自信がある者は健脚に任せ、天馬に乗った二人を追って国境を越えたのだ。
越えた場所が、広大な未開地だった。

ここはキャスバルたち忍者にとってもいい環境だった。
中には弱い者もいるが、基本鍛え上げた戦士が大半の忍者集団だ。
未開地の獣程度なら簡単に撃退できる。
それどころか食糧となる獲物にすぎない。

もっとも、キャスバルたち忍者が束になっても勝てない、主級の魔物もいる。
例えばオリビアとネイになついている天馬や一角馬だ。
天馬や一角馬が本気になったら、忍者たちは皆殺しにされていただろう。
だがそうはなっていない。
忍者たちは、天馬や一角馬から、オリビアに仕える下僕と思われていたのだ。

オリビアとネイは、狼と天馬と一角馬にかしずかれて、横穴洞窟を家にしていた。
キャスバルたち忍者は、未開地の木を切り倒し、生木のまま小屋を建ててくらしていたが、後々のために切り倒した材木を乾燥させてもいた。
生木で建てた小屋での永住は厳しいからだ。

生木が乾燥してくると、小屋のあちこちに隙間が生まれてしまう。
その時に蒸発した湿気が小屋に籠ると、生木が腐敗してしまい、白蟻が生木を食べて床などは波打ってしまう。
まあ、そんな事は忍者たちも知っているので、長い目で忍者の隠れ里を作るつもりだったのだが、そうはいかなくなってしまった。

「ネイ、ママにはやらなければいけない事ができてしまったの。
一緒に来てくれる?
それともここで待っている?」

「いっしょに行く!
ひとりで待つのは絶対に嫌!」

「じゃあ一緒に行きましょうね」




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