「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第10話

キャスバルは覚悟を決めていた。
腐った国になどなんの未練もなかった。
それにオリビアのつぶやきが本当なら、この国は滅ぶ。
その事は、キャスバルだけでなく、キャスバル組の忍者すべてが信じていた。
だから王都や里から家族を呼び寄せた。
呼び寄せてオリビアと共に移動した。
神の慈悲にすがるためだ。

幼児を連れたオリビアの旅程は遅れがちだった。
どこにいるのかも、アイザック王太子と アメリア偽聖女に知られていた。
次々と刺客が送られた。
ダニエル第二騎士団長の長男で騎士長のローガン。
オスカー右大臣の長男で次期右大臣のジャック。
アーチー左大臣の長男で次期左大臣のジャック。

だが誰ひとりオリビアに近づく事もできなかった。
忍者たちが派遣された騎士団や諸侯軍ごと殺していた。
その方法は計算しつくされていた。
鹵獲品、戦利品を逃亡資金にする前提で確保し、そのうえで殺すのだ。
大人と子供くらい戦闘力に差があった。

「キャスバル。
俺たちは先に行く。
待ち伏せされている可能性があるからな。
国境の軍城では軍隊が待ち構えているかもしれない。
その時は強行突破になる。
覚悟しておけ」

「分かりました」

キャスバルたちには、王国の全忍者が合流していた。
キャスバルの父親で頭領のジョシュアが、ラムダフォード王国を見限ったのだ。
極端なくらい現実主義の忍者らしい判断だった。
だが判断ミスもあった。
オリビアが街道から外れ、関所破りを決行したのだ。
どこからともなく天馬が現れ、オリビアと幼児を乗せて隣国に飛んで行った。

キャスバルたちは慌てふためいて国境線を越えようとした。
一気に天罰が下ると直感したのだ。
そしてその通りになった。
堕落して、神が選んだ聖女オリビアを殺そうとしたラムダフォード王国に、神の裁きが下った。
最初に天使が現れ、聖女を騙る魔人アメリアに雷を下して焼き殺した。

「魔人と淫欲にふけり、聖女を殺そうとしたこの国を滅ぼす」

ラムダフォード王国の全ての民に、神の声が伝わった。
ウィリアム国王は涙を流し、床に額を打ち付け、神に詫びたが許されなかった。
怒り狂った王都の民衆が王城王宮と襲い掛かり、王族を皆殺しにした。
中には獣欲を満たそうとして、王妃や王女を犯す者もいた。
いや、男女関係なく、全ての元凶であるアイザック王太子を犯し嬲った。

爪を一枚づつ剥ぎ、指を一本づつ砕き潰し、歯を無理矢理抜き、身体中の皮を剥ぎ、眼を潰し、傷口に塩を塗った。
それは王太子だけでは終わらず、他の王子達はもちろん、王都にいた全ての貴族と一族一門に及んだ。
だがそんな事をする民が許されるはずもない。
全ての国境線に蟲がわき、ラムダフォード王国の民全てを激痛の内に喰い殺した。
旧ラムダフォード王国領は魔境と呼ばれ、誰一人近づかなくなった。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品