「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第7話

キャスバルは王都への報告を絶やさなかった。
連絡係として送られてくる父親直属の忍者に、事細かに状況を書いた手紙を託し、自分は配下の者に頼らず、オリビアを見張り続けた。
手紙の内容は、鍛え抜かれた忍者に相応しい、私利私欲を交えず、公正公平に事実だけを列挙した内容だった。

だがその内容が大問題だった。
街道沿いの不正が次々と露見していくのだ。
治安が極端に悪化している事が、国王の耳に届いてしまった。
大臣級の重臣たちは顔を青ざめさせていた。
不正が見つかり治安が悪化している宿場町や地域が、引き継ぎのために息子たちに任せてるところだったからだ。

国王と重臣たちは苦慮していた。
多少の疑念だったことが、徐々に真実だったと分かり始めていた。
このまま子供可愛さに王国を傾けるのか、それとも国のために子供を処断するのか、苦悩の日々を過ごしていた。
だがなかなか決断することができないでいた。
いたずらに時が過ぎるばかりだった。

だがそんな事情は、重追放刑に処せられたオリビアには何の関係もなかった。
痩せ細って死の一歩手前だった幼児を可愛がり。
優しく愛するだけだった。
だがオリビアは幼児をアカまみれのままにしていた。
そのアンバランスさがキャスバルには分からなかった。

それは知識と経験の差だった。
忍者としての訓練で、厳しい修行に耐えて身体を作ったキャスバルには、どうしても分からない事だった。
身体にこびりついたアカと皮脂のお陰で、貧民が寒さから守られている事を!
極端な栄養不足、いや、栄養だけではなく、根本的な食事量が不足して弱った身体では、清潔にするための入浴だけでも、死に直結するという事を!
王都でずっと貧民の世話をしていたオリビアは、その事を知っていたのだ。

オリビアは街道沿いで果物や野草を盗む量を増やした。
背負って旅する幼児に食べさせるためだった。
幼児を背負っての旅では、どうしても旅程が遅くなるが、重追放刑の期日までには、王都から一〇〇キロメートル離れなければならない。
全身に負担のかかる旅を続けながら、それでもオリビアは幼児を愛し可愛がった。

キャスバルは尾行など辞めて、表に出てオリビアを手伝いたかった。
自分がやっている任務を恥じるようになっていた。
いや、王家に仕える事すら嫌になっていた。
だが、自分が勝手に任務を放棄すれば、一族一門に罰が与えられる。
領地や扶持を失うくらいならどうとでもなるが、王太子たちの不義不正を知る忍者たちには、刺客が送られる可能性が高いのだ。
キャスバルは忸怩たる想いを抱えながら、ただオリビアを見張り続けた。

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