「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第3話

狼たちはキャスバルに何の興味もしめさなかった。
先ほどの光景を見ていたキャスバルは、正直戦いになると思っていた。
肩透かしを食らった気分だった。
盗賊たちと自分に何が違うのかと考えかけた。
だが考えるよりも、オリビアを追うのが先だった。
助けるにしても見殺しにするにしても、自分の眼でオリビアを見極めなければいけないのだ。

直ぐにオリビアに追いつくことができた。
オリビアは片手に小ぶりなリンゴとキュウイを持っていた。
野生種なのだろう。
栽培され店に並ぶ物よりも劣って見えた。
だが野生種だろうと勝手に取ったら窃盗だ。
すべての土地には所有者がおり、そこに生きる獣も実りもその所有者の物なのだ。

キャスバルは見て見ぬふりをした。
実際自分たちも、役目の間に勝手に狩りをしたり採集したりしたことはある。
忍者として探索中は、街にも村にも入れない事は多いのだ。
銅貨一枚持つことも許されなかったオリビアが生きていくには、物乞いをするか盗むしかないのだ。

日暮れ前にオリビアは街道沿いの宿場町にたどり着いた。
街道沿いの宿場町は、歩いて八時間でたどり着ける間隔に置かれている。
脚に自信がある健脚は、ひとつとばして次の宿場まで足をのばす者もいるが、普通はちゃんと宿場町ごとに宿をとる。
特に日照時間の短い冬場は、宿場町をとばす者はいない。

特にオリビアは重追放刑を受けている。
宿場町の役場に出向いて報告しなければ、逃亡を図ったと処分されてしまう。
何気なく見ていると、色々と報告しているようだ。
途中の盗賊団の事も報告している。
宿場役人が苦々しそうにオリビアをにらみつけている。

何かおかしい。
普通の宿場役人なら、盗賊が殺されたと聞けばよろこんで当然だ。
それをよろこばず、逆に憎々しげににらみつけるとなると、盗賊団との癒着、あるいは宿場役人が盗賊団を操っていた疑いすらある。
キャスバルはそんな腐った宿場役人を処分したことが何度かあった。

宿場役人に背中をにらみつけられながら、オリビアが役場をでてきた。
少し薄汚れているが、修道女姿のオリビアだ。
角付けして寄付を頼むか、宿場町の教会に一夜の宿を乞うのかと思えば、そのまま宿場町を通り抜けようとする。

これには少々驚かされた。
夜に街道を歩くなど命知らずにもほどがある。
オリビアくらいの教育を受けた人間なら、先ほどの役人がおかしい事くらい、当然気がついているだろう。
まさか、誘っているのか?
殺すつもりで誘っているのか?
狼たちを自由自在に操れるのか?

そう思っていると、オリビアの眼がボロボロの服を着た幼児をとらえた。




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