「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第6話

「敵軍はどうしていますか?」

「……」

「なぜ黙っているのですか?
何かあったのですか?
逃げ遅れた民が捕虜になったのですか?
正直に答えなさい!」

「いえ、我が国の民は全員領都に匿っております。
何の心配もありません。
我が国の民は大丈夫なのですが……」

「なにを口ごもっているのですか?
全て話しなさい!」

私は斥候頭に全てを報告させましたが、報告を渋る気持ちが分かりました。
女である私には、王太子の行状は報告し難いのは確かです。
ですがそれでは駄目なのです。
私が迎撃軍の要である以上、全てを知っておく必要があります。
そうでなければ意思統一ができなくなります。

筆頭騎士のピエトロが私に知らせないようにした理由も理解できます。
ピエトロは遠征軍を内部分裂させようとしていたのです。
王太子が愚かなことを重ねるほどに、民の心は王家から離れます。
民の怒りが頂点に達したら、王家の言いなりになっている領主に怒りの矛先が向かうことになります。

領主が領民を鎮圧できれば、表面上平穏に見えても、領民を殺してしまった領主軍は集めるべき兵士が集められず、年貢収入も激減してガタガタになります。
一方領主が領民を自力で鎮圧できないと判断した場合は、領地を捨てて王家に助けを求めるか、領民の願いを聞いて王家に弓引くかのどちらかになる事でしょう。

ですが今の王家の所業を見れば、王家に助けを求めるのは自殺行為です。
領民を統治できなかったことを咎められて、一族皆殺しになるのは眼に見えているのです。
だとしてらとるべき道は一つしかありません。
領民と心を一つにして王家に戦いを挑むことになります。
ピエトロはそういう筋書きを描いたのでしょう。

「ピエトロ、私はそういう方法は好みません。
父上と母上もこのような方法は好まれなかったのではありませんか?
待ちなさい。
ピエトロの言いたいことは分かります。
思いやりと優しさを信じた結果が、父上と母上の非業の死です。
まして今は遠征軍に襲われている最中です。
『敵兵に情けをかける必要などない』と言いたいのでしょう?
その気持ちは、父上と母上を殺された私が誰よりも分かっています。
ですがそれではいけないのです。
それでは人非人のアレッサンドロと同類になってしまうのです。
ハミルトン王家と同じ誇りを失った領主になってしまいます。
私は、カーライル家は、そのような畜生と同等の存在になる気はありません。
誰がどうあろうと、誇り高き一族として振舞うのです。
分かりましたか?」

「はっ!
私が間違っておりました。
何なりとお指図願います!」

「水龍に動いてもらいます。
敵軍が敗走したら、敵将だけを狙って襲撃しなさい。
むりやり徴兵された兵士は見逃すのですよ」

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