「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第3話

「巫女様。
敵は王太子アレッサンドロ率いる一万人だそうです」

「心配しなくていいわよ。
水龍様とは交信できています。
私の事より民は全員領都に入れたの?」

「大丈夫でございます、巫女様。
非常用の集会所に場外の者を集めております。
横死された領主様と奥方様の敵を取るのだと、皆が武器を手にして意気軒昂でございます」

「無理はさせないように。
絶対に城内からは討って出ないようにさせるのよ」

「承知しております」

筆頭騎士のピエトロが側に控えてくれています。
老練な彼が、水龍様との交信で指揮ができない私に代わって、攻撃部隊を指揮してくれます。
私自身の護りは、フランチェスカを筆頭とした女騎士が務めてくれます。
水龍様と交信するときは、正式な巫女装束になるので、全く防御力がなくなりとても危険な状態なのです。

上使の首を取り、ハミルトン王国の非道をなじり、殺した上使の供に宣戦布告の手紙を持たせました。
開戦を決意した以上、時間に余裕などありません。
水龍様との交信準備はもちろん、領都以外に住む領民を、安全な領都に収容しなければいけませんでした。

父上と母上を騙し討ちするような卑怯な連中です。
領民に騎士道精神を発揮するはずはありません。
奪い犯し殺す事でしょう。
防御力の低い村に残してはおけません。

それと、カーライル家は魔境の恵みで豊かですが、戦争の準備などしていませんでしたから、多くの領民を領都に収容して籠城するための保存食が不足していました。
急いで魔境に騎士団・従士団・自警団を派遣して食料を集めさせましたが、量と保存期間の問題で、長期籠城は不可能です。

それでも、一日でも長く領民が安心して籠城できるように、城代騎士のマヌエルが寝食を忘れて奔走してくれました。
近衛騎士のクリスティアンは、集まってきた村々の領民を束ね、従士団に組み入れて領都の護りを固めてくれました。

彼らをはじめとする多くの家臣たちの御陰で、私は水龍様との交信に専念することができたのです。
水龍様と交信できるのは、カーライル家の血を継ぐ者だけです。
その中でも、水龍様の血を色濃く受け継いだものだけです。

そうなのです!
カーライル家は水龍様と人の間に生まれた、龍人の末裔なのです。
代を重ねるごとに水龍様の血が薄まり、水龍様と交信できる者は減っています。
今では私だけになってしまいました。

「巫女様!
敵軍が村に火を放っております!」

「今は我慢しなさい。
私は一人の家臣も領民も死なせたくないのです。
家は建て直すことができます。
カーライル家の総力をもって復興させます。
ですが、失った命だけは、絶対に取り戻せないのです。
敵が水龍様の一撃を受けるまでは、こちらから攻撃してはなりません!」

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