「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第10話

私はオットーに化けて十日過ごしました。
本当は直ぐにクレーマー侯爵エルンストを嬲り殺しにしたかったのですが、それでは万が一私が返り討ちになったときに、ステラやイザベラが奴隷競売屋敷で苦しんだかどうかわかりません。

憶病すぎるほど慎重だといわれるかもしれません。
ですが、信じ愛していた父親に裏切られたトラウマは決してなくなりはしません。
今私が復讐できているのはルシファーの御陰ですが、そのルシファーに騙されている可能性や、最後の最後に裏切られる可能性を無視できないのです。

エルンストに復讐する直前に裏切られ、ステラやイザベラが助け出されていて、三人が一緒になって私を嘲笑う。
いえ、実はオット-も本当は無傷で、私が幻覚を見せられていたり、夢を見せられている可能性が頭に浮かんでしまうのです。

だって、ルシファーは魔王なのです。
人を騙し裏切り魂を奪う種族なのです。
私のような人間よりも、エルンストやオットー、ステラやイザベラのような人間のほうが大好きで、一緒になって私に糠喜びさせて、最後の最後に大逆転させて私を嘲笑うほうが、魔王らしいと思ってしまうのです。

なので、なかなか最後の復讐に踏み切れないでいます。
エルンストに報復することを遅らせて、オットー、ステラ、イザベラを痛めつけることを長引かせ、大逆転されないようにしてしまいます。
我ながらなんと憶病で情けない姿でしょう。
いえ、そもそも魔王の力を借りようとした時点で情けないのですよね。
でも、幼い私にはほかに方法などなかったのです。

「フッフフフフフ。
心配することはないぞ、ラウラ。
我には我の都合があるのだ。
それに、最初から醜い心に人間などに興味はない。
清らかな心の持ち主を汚し貶め悪魔の信徒にする事こそ我の願いであり快楽だ。
怯えず恐れずエルンストに復讐するがよい」

ああ、やはりそういうことなのですね。
人を汚し貶めることが快感なのですね。
そう考えれば、母上が騙されたのも、ルートヴィッヒ侯爵家が乗っ取られたのも、私が悪魔の手先になったのも、ルシファーの策謀なのかもしれません。
私がそう考えて苦しむことでさえ、ルシファーの喜びなのかもしれません。
母上は最後までオットーに騙されておられたのでしょうか?
もし気がついていたら、母上は悪魔や魔王に頼られたでしょう?
私はこのままルシファーに頼って復讐すべきなのでしょうか?
いえ、頼るしかありませんよね。
ルシファーの助力がない私に、エルンストを殺すことなどできませんよね。


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