「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第5話

「癒しの聖女マチルダ。
この国民を助けてくれたことは礼を言う。
だが、聖女を王妃にすると約束したのは先代国王だ。
余が国王となった以上、先代国王との約束は無効となる。
私にはこの国のために隣国の王女を正室迎える責任がある。
聖女には直ぐにこの国から出て行ってもらおう。
これは国民を治療してくれた礼だ。
受け取りがいい」

ジャクソン第四王子。
いや、ジャクソン国王。
私を見下すその眼は、殺さないでやるからとっとと出て行けと言っています。
父殺し国王殺しの弑逆王。
国王になるために邪魔になる三人の兄を、手を組んだ隣国王に殺させた男。

私を殺さないのは、慈悲のためなどではありません。
この国で殺したら、さすがに外聞が悪すぎるからです。
いえ、私が助けた国民が放棄するからです。
隣国に追いやって、手を組んでいる国王に殺させるつもりです。
私に与えた金銀財宝も、兄達を殺してくれた隣国王に対する礼です。

このバカは全く気がついていないようです。
守護神であったヌン神とナウネト神が、私の怒りを恐れてすでにこの国から逃げ出してしまっている事を。
この国はもう終わりです。
国境付近では早くも砂漠化が進んでいます。
王都の井戸も涸れ始めています。
まあ、そんな事を教えてやる義理などありません。

「分かりました。
直ぐにこの国から立ち去らせていただきます」

私はそう言って、転移の魔法で消え去りました。
誰が馬鹿正直に歩いて出て行くものですか。
辺境にしか建国できないような、弱い近隣の神々など、まとめて殺してしまえますが、私は争いごとが好きではありません。
それに、簡単にジャクソン国王を殺してやるほど優しくはありません。
遠見の力でジャクソン国王が殺さる姿を愉しませてもらいました。

私が実質追放された事と、守護神が去ってしまったことは、翌日には国中に広まりました。
民の怒りは凄まじく、民が王城に殺到しました。
王城を守るべき国軍は、ルーベン大将軍が指揮を執ったので、民と一緒に王城を攻め込む側に回りました。

もしルーベン大将軍が指揮を執っていなかったら、虐殺と略奪が王城内に吹き荒れていたでしょうが、彼がそのような真似をさせませんでした。
「恥ずかし真似をしたら、癒しの聖女に顔向けできないようになるぞ」
そう言って民を上手くコントロールしました。
ジャクソン国王はルーベン大将軍の手で首を刎ねられました。

ですがこのままでは、めでたしめでたしにはなりません。
ヌン神とナウネト神が逃げ出してしまっているので、この国は砂漠に戻ってしまいますが、それは私の本意ではありません。
せっかく助けた民を、砂漠で野垂れ死にさせたくはありません。
しかたありません。
ヌン神とナウネト神を脅かして、もう一度守護神をさせます。
ルーベンとジュードの親子がいれば、あと三十年は国を維持できるでしょう。

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