「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第16話追放10日目

「逃げなさい。
もうこの国は駄目です。
魔がこの国を支配して民の怨嗟の声を求めて酷政を行います
少しでも早くこの国から逃げるのです」

今まで何も言わなかったオリビアが、つに口を開いた。
オリビアだけでなく、オリビアが使役するスケルトンが、手に逃げるように書いた板を持って村や街を回っていた。
だが庶民の中に字が読める者は少ない。

オリビアは直ぐにやり方を改めた。
魔核・魔石・魔晶石・魔宝石を使い分けて、伝言用の使い魔を創り出した。
自分が直接行くことが到底不可能な、遠方の村や街に加え、今度は都市にまで使い魔を送り、この国を捨てて逃げるように伝えた。

だがそんなオリビアを遠見の鏡で見る者は誰もいなかった。
王城はそれどころではなかった。
そしてその事を、オリビアは理解していた。
だからついに決断したのだ。
この国から逃げるように、全ての民に伝える決断をしたのだ。

だが、オリビアの努力は実らなかった。
ギリギリまで追い詰められ、オリビアに助けられた人達は、言葉通りに逃げようとしたが、まだ逃げるだけの体力がなかった。
まだ救いの手が差し伸べられていない、酷政に虐げられている人達も、逃げる体力も国境を越えるまでに必要な食糧もなかった。

何とか生きていける状態の村や街や都市では、使い魔の伝言は全く信じられず、誰も逃げ出そうとはしなかった。
豊かに暮らしている村や街や都市では、狂人の戯言だと無視された。
オリビアはそれでも諦めなかった。
せめて信じてくれる人だけでも助けようと、全身全霊の力を使って酷政に苦しむ村や街に駆けつけ、手持ちの食料を放出して、逃げるように伝えた。

だが、直ぐに手持ちの食料が尽きてしまい、新たな食料を狩らなければ、貧民に食料を与えることができない状況となってしまった。
オリビアはジレンマに陥った。
できるだけ早く、多くの人に逃げるように伝えたい、説得したい。
だが逃げるには、食べる物がなければ逃げられない。
逃げるための体力から取り戻さなければいけない。

もう時間がない。
この国が亡ぶのは目前に迫っていた。
オリビアにはそれが分かっていた。
だがそれでも、食料だけは絶対に集めなければいけなかった。
だから、迫る時間に焦りながらも、また魔窟に挑むしかなかった。
魔窟に入って食料を集めるしかなかった。



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