「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第1話

「すまないね。
今迄辛い思いをさせてしまったね。
でももうこれからは私が護ってあげるからね。
私は君を心から愛しているんだ。
その証拠として君に私の子種を授けよう。
これで君は聖母になれるよ。
救世主の母親になれるよ。
現人神の聖母になれるんだよ」

「ふざけるな!
誰がそんなこと頼んだ!
やっと自由になれたというのに、いきなり子持ちだと?
馬鹿も冗談も休み休み言え!
こら!
一方的に言いたいだけ言って消えるな!
返事しろ糞神!」

私は激烈な怒りと共に眼を覚ました。
今見た夢がただの夢ではなく、神に見せられたお告げだと確信していた。
だからこそ夢の中でも眼を覚ましてからも、怒りがおさまらなかったのだ!
太陽神サヴィトリのいう事は身勝手過ぎる。

何が愛しているだ!
愛しているなら私の話を聞け!
こっちの願いを聞け!
神の都合だけを押し付けるのは愛情ではない。
この状態でどうやって子供を育てろというのだ。

私は荒野に追放されて彷徨っている最中なのだ。
そもそも全ては神の大雑把すぎる加護が悪い。
本当にお気に入りなら、もっと人間界の都合に合わせて加護をくれ。
私を愛している、お気に入りだというのなら、もっと暮らしやすい家に生まれさせてくれてもいいじゃないか!

私マリアは、ごく普通の農家に生まれた平凡な少女だった。
問題があるとしたら、少々口の悪い地方に生まれたくらいだった。
それが教会で行われる七歳の魔力測定儀式で、聖女級の魔力成長が見込めると判定されてしまった。

今考えれば、それが不幸の始まりだった。
並の領地なら、教会に囲い込まれていただろう。
堅苦しいとはいえ、教会ならまだ家族に会う事もできただろう。
だが私の住んでいた領地は、四大公爵家の一つロントリム公爵領だった。

ロントリム公爵家当主ケイン卿は、教会にすら圧力をかけられる辣腕家だった。
私は父母兄弟から引き離され、教会の守護も得られず、ロントリム公爵家の養女にされてしまった。
しかも私を、王太子の婚約者に擁立しやがった。

それに付きまとう色々とした問題に、私は押しつぶされそうだった。
まず地元の言葉使いを直させられた。
マナーや教養はもちろん、一番大切な魔術も徹底的に叩きこまれた。
養女など名ばかりの、激しい体罰を含める猛訓練だった。
今このような乱暴な言葉遣いをしているのは、あの時の反動だ。

だが、そうそうロントリム公爵の思い通りには進まない。
ロントリム公爵にも政敵はいる。
最も激しく対立していたのが、同じ四大公爵家で宰相のギネス公爵だった。
ギネス公爵は奸智に長けた腐れ外道だった。

リモンド伯爵令嬢ステラに王太子を籠絡させて、私に侍女殺害の濡れ衣を着せ、追放刑としようとした。
当然ロントリム公爵は巻き返しを図ったが、私はこれ幸いとギネス公爵と裏取引をしたのだ。

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