「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第6話

「月光姫様、治療を始めさせていただきましょう」

国を追放されて初めて、ベットの上で眠ることができました。
頑丈な鍵がついていて、外からの襲撃を防ぐ頑丈な鎧戸まであります。
私が安心できるようにと、部屋を選んでくれたのでしょう。
私は泥のように眠りました。
恥ずかしい話ですが、丸一日、二十四時間眠ってしまいました。

色々な方の治療を行ってきた神殿長が止めてくださらなったら、神殿騎士が扉を壊して入ってきただろうと私の世話係となった見習修道女が笑って話してくれました。
そのこぼれんばかりの笑顔に、本当に助かったのだ、安全なところに逃げ込めたのだと、心から安堵出来ました。
いえ、丸一日眠りこけていたという事は、月神殿に逃げ込んだ時点で、安堵していたのでしょう。

深い眠りから覚めた私は、最初に旅の騎士フェラリ様に謝りました。
私のせいで、丸一日無駄にしてしまったのです。
私と別れて旅を続けるにしても、騎士道精神に溢れたフェラリ様は、黙って立ち去ったりはされないからです。

ですがフェラリ様は笑って許してくださいました。
それどころか、
「今日までよく頑張ったね」
とほめてくれました。
さらに、私の額に記された焼印を治療すると言ってくださったのです。

「ですが、これは一国が法に則って記した焼印です。
勝手に治療することは許されません。
そんな事をすれば、ロナンデル王国と正面から争うことになります。
それに私が受けた焼鏝は、呪いの魔道具です。
普通の治癒魔法で治せるものではありません」

「その心配はいらないよ。
ここは月神殿だよ。
月光姫の方が正しいと理解している。
ロナンデル王国と正面から争うことになっても引かないよ」

「ですが、そんなことになったら、ロナンデル王国の月神殿が、どのような目にあわされるか分かりません。
神官や修道女が皆殺しにされてしまうかもしれません」

私は、それが理由で黙るしかありませんでした。
無実の訴えを諦めて、焼鏝を受ける屈辱に耐えたのです。
ここで無実を訴えて、神官や修道女が皆殺しにされてしまっては、何のために苦痛と屈辱に耐えたのか分かりません。

「その心配はいらないよ。
ロナンデル王国と国境を接する全ての国の月神殿が、神殿騎士を臨戦態勢にして、いつでもロナンデル王国に攻め込めるようにしている。
各国の太陽神殿の半数以上が、ロナンデル王国の太陽神殿の行いを恥として、臨戦態勢を取り始めている。
ジャクソン大神官から賄賂を受け取っていた、各国の大神官や神官長の多くが、破門や追放刑にされている。
だから安心して治療を受けていいんだよ。
もう大丈夫なんだよ」

フェラリ様の言葉に、こらえ切れずに涙が流れました。

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