「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第4話

私は、勇気と誇りで花嫁台と偽られた生贄台を登りました。
首を刎ねられて死ぬことになるにしても、最後まで誇りをもって生きます。
顔をあげ、下を見ずに生きます。

「花嫁を送り出す栄光ある役目は、聖堂騎士団長につとめてもらう」

大神官の呼び出しを受けて、似非騎士が前に出てきます。
形骸化した情けない基準ではありますが、それでも、騎士になるためには一定の基準があるのです。
文武においてそれを満たさないと騎士になれません。
それを、竜神教団は無視しています。
身勝手な基準で騎士を名乗っています。
王家王国の認めていない騎士です。

大柄な男です。
はったりの大きな鎧の中に小男が入っていなければですが。
面貌に目が合っていますから、本当に大男なのでしょう。
でもその眼の光は、完全に常人の眼とは違っています。
狂信者の眼です。
本当に竜神を信じているのか、それとも他の何かを信じているのか?
いえ、狂人の眼という可能性もありますね。

「花嫁、シータ!
頭を下げていただこう。
竜神様の花嫁の頭が潰れているのは見苦しいですからな。
胴から離れるとはいっても、美しくあるべきですよ。
ひゃっはははあはは!」

悔しい!
こんな下劣な男に負けたのですね。
もっと、もっと注意深く周りを見ていれば、ここまで追い込まれずに済んだのに。
お爺様と伯父様を殺される前に何とかできたかもしれないのに!
もう一度、もう一度やり直す事ができたら!

私の願いも虚しく、似非騎士の剣が振り上げられます。
誇りをもって頭を上げ続けます。
頭を潰されるような死を迎えようとも、貴族の誇りは失いません。
いえ、公爵令嬢などと呼ばれるのはごめんです。
アナンデルール公爵家の人間だと思われるのは恥です。
私はクルドケンブリッジ王家の王孫として死んでいきます。

……いつまでたっても剣が振り下ろされません。
時間をかけて私を嬲っているのでしょうか?
誇りが挫けるまで、何度もこの儀式を続ける心算なのでしょうか?
私だって弱気になるときはあります。
いつも心を強く持てるわけではありません。
大男を挑発して殺させましょうか?

チラリと横眼で見た私に目に写ったのは、黄金色の豪奢な板金鎧を装備された、この世の者とは思えない美麗な人でした!
男の人だと思うのです。
たぶん男の人です。
顔は麗人のようですが、身長が大男以上あります。
これほど大柄な女性はおられないとおもいます。

え?!
なにが、起こっているのですか?!
黄金の方の右手が、大男の、似非騎士の胸を貫いています。
胸から背中に右手が突き抜けて血塗れです!

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