「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第10話

「ファンテル王国、レネオス公爵家長女カチュアと申します。
これからよろしくお願いします」

カチュアが堂々とあいさつしています。
人を殺した衝撃から立ち直ってくれたのかもしれません。
少なくとも衝撃を表にださない事はできています。
学院にいる数年の間には立ち直ってくれるでしょう。

私は教室の後ろの壁に並んで立っています。
カチュアが必要とするかもしれないモノを用意しておく役です。
普通は戦闘侍女に任せるのですが、最初は自分の眼で確かめたかったのです。
もちろんカチュアの側にも戦闘侍女がいます。
カチュアだけでなく、教室にいる生徒全員に側仕えがついています。
表向きは側仕えですが、みな護衛役です。

教室には二十人ほどの生徒がいます。
みな真剣に授業を聞いています。
勉強するのが嫌だと駄々をこねるような者は、最初から教室に来ません。
やる気のない者が全くいないわけではありませんが、高額の授業料と滞在費が必要な学院への留学は、遊びでさせられるモノではないのです。
そんな条件なのにやる気のない者が来ている場合は、本国に残せない理由、後継者争いなどで暗殺の恐れがある者くらいでしょう。

「最初に学院長から説明を受けていると思いますが、本来なら学院は転校生を受け入れていません。
高度な学問を勉強するところなので、途中から学ぶのが難しいのです。
転向生のために、在校生の貴重な勉強時間を使って、以前やったところを再度説明することはありません。
転校生のカチュアに配慮することはありません。
その点は在校生も安心してください。
カチュアは来年度同じ授業を再履修する前提で、予習のためにここにいます。
学院としても財政難ですから、少しでも授業料と滞在費が必要なのです。
在校生はその事を理解するように」

担任の教師が事情を説明しています。
身分による差別を禁止している学院ですが、身分に対する配慮はあります。
費用負担ができる者には、二人まで側仕えを身近においていい事。
争いが起こらないように身分別に教室が分かれている事。
この教室は王公教室になっているので、全員が側仕え二人を教室にいます。

カチュアが担任の話を真剣に聞いています。
今日の授業は私がカチュアに教えたことのある内容です。
ですから理解できないという事はないでしょう。
補足は側についているアビゲイルが、さりげなく参考書を開いています。
このようなところが王公教室独特です。
下級貴族や平民の教室なら、参考書どころか教科書すら購入できない者がいます。

さて、資金稼ぎをして、彼らを金で味方に取り込みましょう。






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